第二話 準備開始

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「備品室も立珂様の品が充実しましたし、毎日が夢のようですわ」 「規定服も装飾品も、どれも美しいものばかり。侍女になって本当によかった」  そして最後が宮廷備品室だ。三つの種族が混在する勤務環境は天藍の求める姿ではあったが、摩擦は少なからずある。特に有翼人の健康を害する香の使用は不可とされたが、これは獣人と人間の女性職員から大きな反発が生まれた。そこで有翼人でも使える天然素材の香を備品として無料配布することにし、これが大好評だった。  こういった種族の溝を埋める商品を模索し納品するが、現場は全て宮廷職員が配置されていて立珂はあまり顔を出そうとしなかった。  というのも、宮廷自体がある程度完成している場所だったからだ。満足な生活ができない有翼人を最優先に考える立珂にとって『完成品を納品するだけ』でいい場所は自分自身が必要なわけではないと分かっているようだった。無関心ではないが、やはりこれも流通を担当する薄珂の領分だ。 「みんながよろこんでくれればぼくもうれしい! 薄珂のもにんきだし!」 「あれは見事でしたね。売上は全店舗で一番よろしいと聞きました」 「購入者の母数が多いからね。でもその分有翼人を助ける人が増えてるんだ。売上よりそれが一番大事だ」  立珂が手掛けた店とは別に薄珂の作った店が有翼人を助けるための商品専門『はっかのおみせ』だ。  有翼人本人の生活向上は重要だが、それ以上に注目されたのは何故立珂はここまで快適な生活を送ることができるのかだった。それは薄珂の愛情からくる献身的な世話が大きいと分かり、薄珂はそれを商品化したのだ。  一人の有翼人に対し複数名の家族がいて、それを助けたいと思う人間と獣人もいる。商品を必要とする人数が有翼人より圧倒的に多く、天藍と護栄の助けもありこれが劇的に広まった。宮廷職員が薄珂に注目したのはそのためだ。  そんなこんなで薄珂と立珂には協力者が多く、一見遊んでいるだけに見えてもその実益は種族に及び国家規模となっている。  侍女は変わらず立珂を愛してくれて、我先に面倒を見てくれている。その代表が美星だ。
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