第三十話 未来の歴史

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 護栄とはそれなりに距離が縮まったと思っている。厳しく冷淡な振る舞いをすることが多いが、思いやりの無い人物では無かった。 (少なくとも美星さんのことは大事にしてる。瑠璃宮で騒ぎになった時真っ先に駆けつけたのは護栄様だ)  それは立珂が出店した『天一有翼人店』に先代皇派がいちゃもんを付けに来た時のことだ。  暴力沙汰とまではいかないが、美星が驚き悲鳴を上げた。薄珂と立珂はそれに驚き立ちすくんだが、その瞬間に護栄は美星の名を呼び駆け寄ったのだ。 (……護栄様が動き出したのが解放戦争とは限らないよな)  護栄が何よりも優先するのは天藍だ。それは間違いなくそうだろう。だがその経緯を薄珂は知らない。  考えても分からないことが多すぎて繋がりが見えなくて、じっと考え込んでいると閃里に頭を撫でられた。 「な、何?」 「お前は透珂様と似ていないな」 「え? 似てるって言ってなかった?」 「顔はな。透珂様はお前のように挑む方ではなかったよ。それを責めるつもりはないが」  閃里はふうと息を付き獣人保護区の方に目をやった。その目は一体何を見ているのか、薄珂にはまだ分からない。 「お前が先々代皇の時代にいたなら世は違っていただろうな」 「俺が色々考えるのは立珂がいるからだ。最初から蛍宮にいたならきっとこうはならなかったよ」 「護栄に会うことも無かっただろうな」  くすっと閃里は笑って立ち上がると獣人保護区へ向かうかのように一歩踏み出した。 「護栄の手下じゃないならいいさ」  閃里は優しく微笑みひらひらと手を振り去って行った。  だが薄珂は閃里の最後の言葉が気にかかった。 (護栄様に会うことも無かった……?)  閃里が警戒しているものが分からなかった。しかし、少なくとも護栄の頭脳では無いように思えた。  だがそれがどんな意味なのかはやはり分からなかった。  閃里が立ち去りその言葉を反芻していると、入れ違いでこちらへ近づいてくる人影が見えた。 「閃里様は相変わらずですね」 「莉雹様」
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