第三十話 未来の歴史

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「立珂様の成長期、おめでとう御座います。とても愛くるしいお姿ですね」 「そうでしょ。俺も子供だったからちっちゃい立珂見れるの嬉しいんだ」  莉雹はにこりと微笑むと、四阿に常設されている茶器で茶を淹れてくれた。全侍女が手本とするその所作は美しい。 「莉雹様は閃里様を知ってる?」 「もちろん。護栄様とは昔からよく喧嘩してましたからね」  薄珂は首を傾げた。それはまた新たな情報だ。 (昔から? 閃里様が縁を持ってたのは天藍じゃなくて護栄様か? でも軍師だって知らなかったんだよな……)  莉雹が音もたてず茶を出してくれた。  今の言葉には何の意味もないのか、いつもと同じ穏やかな微笑みだ。 「閃里様はいつから宮廷にいるの?」 「学舎を出てすぐだと思いますよ。代々皇族に仕える家系ですから」 「そんなのあるの?」 「ええ。私的な護衛や身代わりとなる影武者のような勤めをする者も多くおりましたよ」 「そっか。そういう人は皇族の顔を知ってるんだね」 「……申し訳ございません」 「え?」  莉雹は立ち上がり深々と頭を下げた。  遠巻きに侍女も見ていてぎょっとしているようだった。 「ちょっと止めてよ! 何!?」 「……私は気付いておりました。あなたが透珂様のご子息だと」 「へ?」 「我が家も皇族に仕える家系でした。透珂様のお顔はよく覚えております。透珂様と涼音様の面影があり、薄立様の名を持つ兄弟。気付かないはずがない」 「ああそうなんだ。じゃあ他にも気付いてる人いるよね。何でみんな黙ってたんだろう」 「……お怒りになられないのですか」 「え? 何を?」 「騙していたようなものです。もっと早くにお伝えすべきでした」 「俺皇族に興味無いからいいよ。立珂を可愛がってくれる人は味方でいじめるなら敵。それだけだ」 「そう、でしたね」  莉雹は少し驚いたようだったが、すぐにくすくすと笑い出した。  その笑顔が寂しそうにも見えたのは気になったけれど、皇族との関りがどうあれ今の莉雹は立珂を守り愛してくれる人の一人だ。それだけで薄珂には十分だ。 「莉雹様から見て閃里様ってどう?」 「どうとは?」
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