第三十話 未来の歴史

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「しっくりこないんだよね。閃里様って何を求めてるんだろう」 「安寧でしょう。志は殿下と同じでいらっしゃいました」 「天藍が宋睿を討ったのは私怨だよ。志が同じだったなら閃里様も私怨だってことになる」 「それは、まあ。皇族に仕える家系は皆そうでしょう」 「じゃあ何で宮廷に残ってるんだろう。殺して恨みが晴れたなら宮廷に残る必要ないよね。なのに天藍と仲違いしてでも宮廷に残った」 「それはおそらく、牙燕将軍が宮廷を離れたからだと思います。先々代皇に仕える家はいくつかの派閥がありましたが、その中で最も大きかったのが牙燕将軍の豹獣人一族。閃里殿はこれの傍系です。きっと牙燕将軍が手放さざるを得なかったものを守りたいと思われたに違いありません」 「……慶真おじさんもその家系?」 「いいえ。慶真殿は先代皇の時代にいらした方です」  それはまた妙な話だなと感じた。  慶真は里を守る役割を担っていると本人が言っていた。それで蛍宮を離れることを許されたとも言っていた。  なら慶真の行動を握る上司は蛍宮にいて、その人物は皇族所縁の牙燕を守ろうとした。 (家族を優先するおじさんじゃ牙燕将軍の護衛としてはいまいちだ。それでも閃里様は宮廷に残った)  繋がるようで繋がらない。薄珂の知らない何かがまだ隠されているのは違いないが、誰がどんな思惑を持っているかも分からない。 「……莉雹様は有翼人狩りをどう思う?」 「許されない悪行です。何の意味も無い前代未聞の悪事」 「じゃあ有翼人狩りが起きなければどうなったと思う?」 「もちろん有翼人も長く生き、共に立珂様のお洒落を楽しめたでしょう。無念でなりません」 「そうかな。俺はそうは思わない」 「薄珂様?」  薄珂は莉雹の視線に背を向け立ち上がった。 「護栄様はどうして天藍を選んだのかな」  分からないことがいっぱいある。  そしてその中心にいるのは、やはり護栄であるように思えた。
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