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「お前どうなんだ。透珂様のご遺志を継ぐわけでは無いんだろう?」
「それは――……え!? 俺が透珂の子供って知ってるの!?」
「そりゃあそうさ。よく似てる」
「そんな、なんで何も言わなかったの」
「そりゃ透珂様には言ってやりたいさ。国民を捨てて逃げやがって。けどお前は透珂様じゃない」
「何も知らない子供に罪を背負わせるほど馬鹿じゃねえよ」
え、と薄珂は思わず背が伸びた。
(みんな透珂を憎んでるのか?)
薄珂の印象じゃ長老は皇族側の人物だ。その長老に守られた彼らも皇族側で、ならば当然透珂を敬愛するのだろうと思っていた。
だが里の大人は全員が不愉快そうに透珂の愚痴を言い合っている。
「……じゃあ俺を里に入れるの嫌だったんじゃない?」
「まあな。だから長老様は龍鳴の傍に置いたんだ。俺らの意を汲んでな」
「けどあれは俺達が間違ってたよ。慶都の言葉は効いた」
「慶都?」
「守れるのに守らないのは殺すことだと叫んでいた。それは俺達が透珂様へ抱いた感情と同じ。透珂様と同じことを俺達はしていたんだ」
「蛍宮へ移住しなかったのってそれが理由? 透珂が棄てた国だもんね」
「それは」
「棄てたのではない。一時預けられただけだ」
「が、牙燕様」
里の大人たちは急にぴしっと背筋を伸ばした。俯き目線をうろつかせ、いかにも「しまった」という顔だ。
しかしそれをどう言うこともなく、牙燕はじっと薄珂を見据えていた。
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