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「透珂様は我らに国の未来を託されたのだ。新たな力と共にお戻りになるとおっしゃった。見棄てたわけではないと言ったはずだぞ」
「わ、分かってますよ。けど……」
「消えちまったことに変わりはねえですよ」
「お前たちがそんなことでどうする! それこそ未来に続かんぞ!」
「はあ……」
長老はぎらりと目を光らせた。
その鋭い目は里で立珂を助けようとしてくれた長老とはまるで別人のようで、薄珂は思わず背が伸びた。
(皇族制度を続けるつもりなのか? 透珂がいなきゃ無理――……)
はっと気付き薄珂は立ち上がった。立珂へ近付けないよう間に立ち、じっと牙燕を睨んだ。
「長老様は何で急に戻って来たの? せっかく蛍宮から離れられたのに」
「それはもちろん皆の安寧。お前と立珂もだ。皇太子と伴侶契約だの血を吐いただの尋常じゃない」
「ならもっと早くに来るべきじゃない? この数カ月で病気も怪我もした。有翼人保護区なんて政治にも踏み込んだ。迎えに来るのが遅すぎるよ」
「おお、それはすまない。知らなかったんだ。何しろ歩いていける距離では」
「嘘だ。それは嘘だよ」
「……何故?」
「伴侶契約と血を吐いたことを知ってるから。その二つを知ってるのは数人だ。口止めもされてる。なら長老様は蛍宮中枢の誰かと連絡を取り続けてたってことになる。それは誰? 何のため?」
すうっと牙燕は目を細めた。
薄珂が予想外の反応をしたのか、予想していた中で最悪の反応をしたのか。
それとも予想通りか。
「聞きたいことがあるんだ。俺に公吠伝を読ませたのはどうして?」
「それは――……」
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