第三十一話 牙燕将軍の見た未来

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 薄珂が知略や政治の実態を知ったのは護栄と深く関わってからだ。  だがそういう知識がこの世に存在するのだと知ったのは、長老が『極北明恭公吠伝』を読ませてくれたからだ。 「今思えば全てあそこから始まった気がするよ。じゃなければ麗亜様と話はしなかった」 「透珂様は必ずや国を取り戻すと仰られた。そのためには皇族の血を持つ子が必要だとも」  しんと静まり返った。里の大人は頭を抱えて俯きいている。  けれど長老はそれを背負って一歩前へ出た。 「時はきた。だから私は蛍宮へ戻って来た!」 「あなたの目的は俺を皇太子に立てることか」 「目的も何も、お前は正当な皇太子だ」 「悪いけど俺は立珂しか大事じゃないんだ」 「何を言う。国を率いるのは皇族の成すべき使命だろう」 「……それは、どうだろうね」  辺りは静まり返っていた。牙燕将軍の言葉を否定する者は一人もいない。  だが賛同する者もいなかった。  しかしこれは薄珂が頷かなければ進みはしない。彼らが何を言おうが、薄珂が協力をしなければ何も変わらない。  薄珂はふうと息を付き肩の力を抜いた。 「長老様には感謝してるし恩に報いたいと思うよ。けど……」  ふと天藍の顔が頭をよぎった。  蛍宮へ来ることを決めたのは立珂の未来のためだ。それは本当だ。  けれど天藍の側にいるためでもあった。 (天藍……)  薄珂はぐっとそれを呑み込んだ。感情論が響く相手ではないだろう。 「護栄様にも恩があるから無視はできない」 「……いいだろう。よく考えるんだ」  牙燕は驚くほどあっさりと引いた。それはきっと護栄を敵にするのは得策では無いからだろう。  だが薄珂が考えているのはそれとはまったく別のことだった。  薄珂は走った。立珂には仕事をしてくると告げて慶都と美星に任せ、薄珂は真っ直ぐ宮廷へ走った。
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