第三十二話 もう一人の皇太子

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 薄珂は閃里を連れて天藍の執務室へ向かった。入ると中には護栄もいて、二人は書類に囲まれている。 「天藍。護栄様」 「ん? どう――……どういう組み合わせだ」  天藍と護栄は薄珂が閃里を伴っている様子に眉をひそめた。 「話があるんだ。どうしても二人に力を借りたい」 「何です? ついに牙燕将軍から皇太子になれとでも言われましたか」 「あ、やっぱり分かってたんだ」 「急に戻られるなんてそれしかありませんよ。ですがそれならこちらも動くまでです」 「ううん。護栄様は動かないでほしい」 「なんですって?」 「護栄様じゃ駄目なんだ。だってこれは皇太子同士の戦いだから」  薄珂は天藍へ目を移した。  天藍は何かを言おうとしたが、それより早くに護栄が間に割って入って来た。 「これは国の問題。あなたの指示を聞く謂れはありませんよ」 「まあそうだね。それでも参加するならその資格を見せてよ」 「資格? 何ですそれは」 「皇太子同士の戦いに参加する資格だよ。護栄様もその資格を持ってるね」  薄珂はとんっと護栄の喉元を指差した。 「あなたは宋睿の息子。先の皇太子だ」  薄珂はにこりと微笑んだ。  天藍と閃里は何に驚いたのか目を見開き、護栄は顔色一つ変えずにため息を吐いた。 「何ですその馬鹿な」 「有翼人狩りを起こしたのはあなただね」  護栄の言葉を遮りそう告げると、答えたのは護栄ではなく天藍だった。  天藍は護栄の肩を引いて下がらせると、自ら一歩前に出た。
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