第三十二話 もう一人の皇太子

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「単純な話だよ。護栄様の育ての親である紅蘭様は宋睿の側室だった。これが分からない。どうして紅蘭様は護栄様を育てたの?」 「才を見出して下さったんですよ。宋睿の役に立つだろうと」 「へえ。つまり護栄様は幼少期から宮廷にいたってことだね」  薄珂がにやりと笑むと、護栄は一瞬だけ目を歪めた。 「……だから何です」 「それは一旦置いておこう。紅蘭様は宋睿の跡継ぎが欲しかったよね。なら絶対に肉食獣人の男児じゃなきゃ駄目だ。でも生まれたのはあろうことか有翼人の女児だった」  紅蘭が側室というのは彼女が自ら宣言したことだ。美星も紅蘭を母と知っていて、護栄もまた彼女が育ての親だと認めている。  全員を個人として知っている薄珂はその関係性に驚いたが、政治的に見れば『びっくりした』どころの話ではない。 「護栄様は美星さんの身代わりだね」 「性別も種族も違う子をですか。そんなのどこかで漏れますよ。皇太子は宋睿の実子です」 「だとしても美星さんの存在が漏れなかったのは事実。美星さんから宋睿の目を逸らすための策を練った誰かがいるんだ。宋睿を騙し続けることのできる誰かがね」 「だったとして私がその実子であることにはなりませんが?」 「じゃあさっきの話に戻ろう。あなたはずっと宮廷にいた。それは間違いないね」 「ええ。でもそれは一職員としてです。宋睿の危うさには気付いていました。だから天藍様率いる解放軍に協力しただけのこと」 「嘘だね」 「……何故?」
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