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第三十三話 偽物
「牙燕将軍」
「……随分と大勢で来たな」
「必要な人員に絞ったよ」
薄珂は牙燕の待つ獣人保護区へ行く前にもう数名に声をかけた。
集めたのは当時を良く知る莉雹と公佗児について知る孔雀、そして透珂の異父兄弟である哉珂だ。
牙燕はその顔触れが何なのか、特に正体を知らない哉珂については意味が分からないようで睨み付けている。
薄珂はそんな疑惑の目を向ける牙燕の前に立った。
「心は決まったか」
「……ごめんね。俺は皇太子にはならない」
「薄珂! お前は透珂様の子だ! その意味が分かっているのか!」
「分かってるよ。先々代皇も透珂も蛍宮を大切に想ってたからそれを未来に受け継ぐべきなんだね」
「そうだ。だからこそお前は御旗にならねばならん」
「それは『俺が』じゃなくて『御旗が』だよね。みんな必要だと思う?」
薄珂は後ろへ目を向けた。そこにはずらりとたくさんの獣人保護区住民――里の大人たちが集まっていた。
それを集め連れて来たのは閃里だ。
「牙燕様。もうお終いにしましょう。薄珂は我らの光ではなかったのです」
「何を言う! 陛下の血が続く限り皇族を廃れせるわけにはいかん!」
「……長老様。皇族ってそんなに大事ですかい?」
「お前! 何を馬鹿なことを!」
「いや、だってなあ」
「俺達を守ってくれたのは長老様だ。透珂様は逃げたじゃないか」
「だからそれは!」
「長老様」
薄珂は牙燕と里の大人たちの間に立った。
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