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「皆を守ったのは長老様だよ。蛍宮に戻ってきたのだって長老様がいるからで透珂のためじゃない」
「そうですよ! 蛍宮に取り残されていたみんなも牙燕様が来てくれてよかったと言っていますよ!」
「それに薄珂のことも、残ってた連中は気付いてましたよ。けど今更引っ掻き回される方がよっぽど困る。だって牙燕様がいるんだ。必要が無い」
「儂が皆を守るのは当然のこと! それが先々代皇に仕える者の使命であり、ひいては皆を守ったのは先々代皇陛下!」
牙燕は一歩も引かなかった。その熱意に里の大人たちは何も返せないようだった。
薄珂には意地になっているように見えたが、そうさせたのは何十年と積み上げた蛍宮皇族への忠誠なのだろうか。
「どうしても皇族にいてほしい?」
「当然だ! そうあるべきだ!」
「でもそれは『正当な皇太子』であって『俺』じゃないよね」
「他には残っておらん。お前しかありえん!」
「ううん。いるんだ」
薄珂はくるりと後ろを振り返り哉珂と目を合わせた。
哉珂はふうと息を吐くと牙燕の前に立ち、すっと頭を下げた。
「柳哉珂と申します。透珂とは異父兄弟です」
「……何?」
「え、じゃ、じゃああんたも皇族か」
「初耳だぞ」
里の大人たちは顔を見合わせざわざわし始めた。
牙燕は固まって目を見開きがたがたと震えている。
「異父兄弟など聞いたことは無い。儂をだますつもりか」
「俺のことは信じなくて構いませんよ。ですがもう一人、先々代皇の血を引く者を知っています」
「……何?」
「こいつは正真正銘皇族直系。どこで生まれたか分からない薄珂よりもずっと正当な血筋です」
「何だと!? 誰だ! それは誰だ!」
「長老様落ち着いて」
牙燕は哉珂の両腕を掴みぎりぎりと握りしめていて、薄珂はそっと肩を抱いた。
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