第三十三話 偽物

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「お前も知っているのか」 「うん。俺と立珂を育てた人の名前は知ってる? 透珂じゃないよ」 「……薄珂。検死の結果、あの遺体はお前の証言と完全に一致した。残念だが薄立殿は亡くなっている」 「それはそう。でも違うんだ。そうだよね、哉珂」 「ああ」  哉珂は懐から何かを取り出し薄珂へ渡した。  それは小刀だった。薄珂が父から貰い、哉珂が何かに気付いたあの小刀だ。 「これは兄弟対の刀なんだよね」 「そうだ。透珂様と薄立様のために作られた物」 「それは半分正解で半分間違ってるみたいなんだ。少なくとも一組ではない」 「何故そんなことが分かる」 「簡単だよ。長老様は薄立から貰ったね。でも俺も父さんから貰ってる。この時点で最低二組存在するってことだ。でもさらにもう一組存在することが分かった」 「な、なんだと。どういうことだ」  哉珂は再び懐から何かを取り出して薄珂の小刀に並べて見せた。それはそっくりで、完全に同じ形状の物だった。 「こ、これは、まさか透珂様の」 「いいえ。これはある男の遺品です。燈実(とうみ)はご存知ですか、莉雹殿」 「え? え、ええ、あの……透珂様の影武者のお一人です。彼も逃亡したので行方はしれません」 「燈実は俺の華理拠点へ来ました。透珂の異父兄弟である俺の所にいるのではと踏んで。しかし宋睿の追手にやられた怪我が元で病になり、透珂と再会せず亡くなった。俺は死に際の燈実からこれを預かりました」  哉珂は小刀を抜いた。刃こぼれが激しくとても使い物になりそうにない。 「牙燕将軍。これは透珂と薄立の持ち物ではありません。薄立陣営による暗殺対策の偽装用です。それもごくごく近しい一部からの暗殺対策」 「偽装用……?」 「透珂と薄立は立場上狙われることが多かったそうです。資格が互いの身内である場合もあった。そこで用意されたのがこの刀。暗殺してくる可能性のある者に『この刀を持つのは透珂と薄立のみ』と思わせた。つまりこれを持っているのは影武者のみで、本人は持っていないんです」 「ど、どういうことだ。そんなのは知らん……」 「そこは今関係無いから置いとこう。問題はその影武者自身なんだ。莉雹様。影武者ってどういう人が選ばれたの?」 「二つの条件どちらかに当てはまる者です。一つは公佗児獣人であること。もしくは顔が……顔が、似ていること……」  はっと莉雹は息を呑んだ。その場の全員がじゃあ、まさか、と口々に驚きを漏らしている。
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