第三十三話 偽物

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「まさか、薄珂、お前は」 「俺は父さんと似てた。父さんはこの小刀を持っていた。つまり俺は透珂とよく似た影武者の子で、皇太子でもなんでもないんだよ」 「……偶然手に入れただけかもしれん」 「だったとしても俺が透珂の子ではありえないんだ。これは絶対に」 「何故!」 「年齢だよ。俺は透珂の実子より五、六歳は年上なんだ」 「何? 何を証拠にそんなことを。年齢など知らないだろう」  「哉珂の話で分かったんだ。まず哉珂は今二十七歳。透珂と会ったのは十五歳の頃だから十二年前だね。その時に『あと数か月で子供が生まれる』って言ったらしい。つまり透珂の実子が生きていれば十二歳。でも俺は十八。年齢が合わないんだ」 「な、な、何っ……」  牙燕はだらしなく口を開けてがくがくと震えていた。薄珂が透珂の子でなければどんな計画を立てても意味を成さない。こうして全てを明かしてしまった今やり直すことももうできない。  哉珂は薄珂の隣に立ち、とんっと薄珂の肩を小突いた。 「それに薄立が羽付き狩りなんかで殺されるはずがない。彼にも一度会ったが、とても皮膚の固い公佗児だった。深い森の木々を緩衝材にすれば銃ごときでやられはしない。足手まといがいないなら一人で飛んで逃げたはずだ」 「もしくはあえて死んだか。襲ってた奴らが父さんを透珂だと信じてたなら、そこで死ねば二度と透珂は捜索されない」 「では薄立様は、薄立様、薄立様はどうされたのだ! 何故お前の父は薄立様を名乗った!」 「それは分からないよ。でも薄立の行方は哉珂が知ってる」 「生きておられるのか! どこだ! どこにいらっしゃる!」 「俺は『正当な皇太子』を探して全国を点々としていた。蛍宮に来たのは薄立と条件が一致する者がいたからだ」  哉珂はこつんと一歩前に出て指を立てた。 「一つ。宋睿の終わりと共に姿を消したこと」  もう一歩前に出て二本目の指を立てた。 「一つ。逃げるにしろ協力するにしろ、皇族再興を目論む牙燕将軍の動向を把握していること」  さらにもう一歩前に出ると三本目の指を立て、進行方向の正面にいる人物をじっと見据えた。 「そして最後。奴は公佗児だ。当然生態を把握している」  哉珂はこつこつと前へ進んだ。  そして一人の人物の前で足を止め声をかけた。 「久しぶりだな、薄立」 「……龍鳴?」  哉珂の示した人物の名を牙燕が呼んだ。  それは牙燕が長く傍に置き、孔雀と名を改めた龍鳴だった。
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