第三十四話 生きていた薄立

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「当時宋睿の皇太子だった護栄様は幼少期より凄まじい活躍ぶりでした。公吠様が何故こうも長く蛍宮へ攻め込まなかったと思いますか?」 「護栄様が何かしたの?」 「そうです。子供ながらに軍事と外交の指揮を執り明恭を黙らせた。それが有翼人の羽根の活用提案で、公吠様は護栄様の提案に従い羽根集めを始めたんです」 「なるほど。麗亜様が恐れるわけだ」 「こんな人物がいては透珂や私を立てたところで宋睿を討つことなど出来はしない。仮に出来たとしても護栄様だけは生き残り再び討ちに来る可能性はとても高いと思われた。だからまずは護栄様を消そうと私陣営と透珂陣営は一致団結し、共に薄珂君を守ろうとなった」 「けどそれで全員黙ったの? 国を奪われた恨みってそんな程度じゃ消えないと思うけど」  薄珂はちらりと牙燕を見た。時が忘れさせてくれるのならば今牙燕はここまで引きずりこだわってはいないだろう。 「それは護栄様が彼等の恨みを晴らしたからです。実は『獣人保護区』と銘打ったのは宋睿ではなく護栄様なんです」 「えっ、そうなの?」 「はい。当初は罪人扱いで『収容区』と呼ばれていました。厳しい労働と少ない給料で生活もままならない。でも護栄様は『これは国外への印象が悪い。でも手厚く保護をすれば印象は良くなり獣人も集うだろう』と宋睿を説き伏せ獣人保護区を豊かにした。実際獣人が蛍宮へ集まり始めたのはこの頃からです」 「おー……」  自らの出自にまつわる謎を明かされていると思っていたが、想像だにしない護栄の活躍にただただ感嘆した。 (羽付き狩りを扇動したのが護栄様なら俺達が蛍宮へ来たのは必然だな)  蛍宮に来てから薄珂と立珂に関わったのではなく生まれる前から関わっていたとは思ってもいなかった。 「そして決定打が天藍様による解放戦争です。仇敵を討った天藍様の志は先々代皇と同じく全種族平等。しかも勝利へ導いたのは護栄様」 「反乱を起こす理由が無くなったんだ」 「そうです。おそらく君達を育てた男は牙燕将軍が蛍宮に残っていると認識していたんじゃないでしょうか。だから君達に蛍宮へ行けと示した」 「そっか。俺たちが何も知らなくても牙燕将軍なら気付いて保護してくれるって思ったんだ」 「恐らくそうでしょう」 「なるほどね。透珂より護栄様に驚きだよ俺は。凄いね」 「買いかぶりすぎですよ。私も結局は私怨。だから天藍様を選んだ」  護栄は落ち着いた様子で吐いて茶を飲んだ。もう自分が隠していたことは詳らかになり気が緩んでいるのかもしれない。  けれど牙燕はまだ何も終わっていないのだろう。ぶるぶると震えて孔雀をじっと睨み付けている。
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