第三十五話 皇太子奪還

1/4
前へ
/245ページ
次へ

第三十五話 皇太子奪還

 天藍は突然の宣言であっけに取られていたが、護栄がすかさず前に出て薄珂を睨み付けた。 「これ以上の勝手は許しませんよ」 「どうして? これは天藍が望んでることだよ」 「何ですって?」  薄珂はにこりと微笑み天藍を見つめた。天藍は気まずそうな顔をして目を泳がせているけれど、薄珂は微笑んでつんっと天藍の胸を突いた。 「最初から皇族に国を返すつもりだったね」 「……何故そう思う?」 「華理の政治を参考にしてるから。一番最初に天藍がくれた有翼人専用服は華理の商品だった。なら当然華理の政治も知っていたはず」  薄珂はちらりと哉珂を振り返った。哉珂は腕を組んで大きく頷いている。 「今の蛍宮は華理の歴史そのものだ。いずれ現華理の形へ辿り着くだろう」 「華理において皇族は象徴で政治的権限を持たない。天藍は最初から皇太子で居続けるつもりなんてなかったんだ。元より天藍が宋睿を討ったのは私怨。皇族入りしたかったわけじゃない」  護栄はぐっと拳を強く握りしめ震わせて、何か言おうと口を開いた。しかし天藍はそれを止め、息をついてから薄珂に向き合った。 「……その通りだ。皇族を政治から切り離し象徴にする必要があった」 「それは何で? このまま天藍が蛍宮皇に立つ道筋もあるよね」 「それは失策だと宋睿が証明した。だが宋睿が立ちあがったのも先々代皇の悪政が原因。つまり皇族が政治を握っても、第三者が皇族として政治を握っても失敗すると立証されたんだ。ならばその両者を成立させるのが一番で、これを完成させていたのが華理だった。だが問題は皇族だ。宋睿の宮廷には皇族がいなくなっていた。どうしたものかと困っていた時に牙燕将軍が透珂の子を擁したという情報が入った」  牙燕が拳を震わせながら身を乗り出した。ほとばしる怒りがその場に広まったが、牙燕はふうと深く深呼吸をして俯いた。  悔しさは見て取れたが、天藍はそれでも前を向き話を続けた。
/245ページ

最初のコメントを投稿しよう!

82人が本棚に入れています
本棚に追加