第三十五話 皇太子奪還

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「もし透珂殿の子が蛍宮を愛し憂いてくれるのなら皇太子に立ってもらえないかと思い里へ行った。だが……」  天藍と目が合った。天藍は苦笑いをしていて、立珂が最優先の薄珂は笑って返すしかできない。 「目論見は外れたが行って正解だった。正当な皇太子が生きていたのだからな」 「では何故すぐにそうしなかった。すぐに龍鳴――薄立様を立てることはできただろう」 「本人にそのつもりがあればとうに戻っていただろう。そうしないのはその気がないからだ。無理に連れ帰っても意味がない。しかし待ったかいはあった」  天藍は孔雀の前に立った。そしてゆっくりと膝を付き深く頭を下げる。 「どうかお戻りを。人間と獣人を繋ぎ、有翼人をも愛するあなたこそこの国の象徴に相応しい」 「国民の英雄は天藍様と護栄様です。金剛の件も本来は薄珂君の手柄。手柄を譲って頂いただけの私にその資格などないでしょう」 「譲ったのではなく共生の手段です。俺は一宮廷職員となりあなたが象徴となる国を共に守りましょう」 「それに国民はもう孔雀先生を慕ってるよ。この前だって獣人保護区を守ってくれたし」 「……まさかこのために私の評判をあげようと?」 「いやいや。もう孔雀先生じゃないと説得力ないんだよ。だって孔雀先生が凄い人だってのはみんな知ってる。毎日獣人保護区の各家庭を回ってくれたり有翼人のために加密列茶を広めたり、水道水に反対もしてくれてたんだよね。金剛なんてきっかけに過ぎないよ」 「薄珂君はまさしく護栄様の教え子ですね」  孔雀は嬉しそうにくすりと微笑み護栄へ振り返った。  一瞬だけ護栄が驚き困った瞬間を薄珂は見逃さなかった。 「護栄様。あなたも私に皇太子の座を譲る準備をしていましたね。それも天藍様が皇太子を名乗る前から」 「えっ!?」
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