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「天藍様が外交で使う『晧月』という名。これは歴代皇太子が受け継ぐ固定の号なんですよ。透珂薄立両陣営が黙ったのはこれも理由でした」
「『皇族を騙るとは』ってならなかったの?」
「これは契約だったんです。護栄様は殿下が皇太子として名乗りを上げる前に獣人保護区を訪れ皆に誓って下さった。晧月の号を持って先々代皇の歴史も語り継ぐと。ですがもし天藍様が道を見誤った時は、宋睿の子が皇族を利用したと明かし反旗を翻す口実にして構わないと契約を交わされた」
「なるほど。廃れた風習を持ち出したのはそういう理由か」
哉珂はうんうんと頷いた。華理で哉珂は天藍が皇太子の号を使っていることに疑問を持っていたが、これは薄珂も疑問だった。まるでとってつけたように存在するその号は国内で使われることが無い。薄珂が聞いたのは天藍自ら語った数回のみだ。
孔雀も頷き、じっと護栄を見つめた。
「全ては宋睿の子による復讐劇だった。何があってもそれで片が付くようになっていたんです」
「ああそっか。あれはそれでか」
「あれ?」
「獣人保護区の侵入者を捕まえた時に護栄様が『国民に心の支えがいるのならその関係を守るのが宮廷の仕事で、宮廷を統べるのが天藍様だというだけ』って言ったんだ。それって護栄様も天藍の天下にしようなんて思ってないってことだよね」
ぐっと護栄は息を呑み、ふいっと目を逸らした。
一体どれだけの策略を張り巡らされているのか、きっと薄珂には想像もつかないところにも根が張られているのだろう。
「でもそんな復讐劇は必要ないよね、孔雀先生」
「……全ての想いと願いが叶うとは限らない。それでもこの国を守りたい」
孔雀は立ち上がり牙燕の前に膝をついた。そして未だ震える牙燕の手を握り、しっかりと目を合わせた。
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