第三十六話 兄、薄珂

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「それじゃあいくつかお知らせをするね。三人ほど人を呼ぶよ」 「は? 人?」  薄珂はちょっと待っててね、とその場を離れると宣言通り三人の人物を連れてきた。  連れて来たのは師であり天一店主の響玄と立珂の友人である慶都、そして明恭第一皇子の麗亜だ。  響玄と慶都はともかく、麗亜の登場には全員が目を丸くした。 「麗亜殿? いつの間にいらしていたんです?」 「哉珂と共にこっそりと」 「……何ですかこの顔ぶれは」  要人の来訪を天藍と護栄が把握していないのは相当おかしな事態だろう。  護栄はじっと薄珂を睨んだが、そんな視線に臆することなく薄珂は響玄の横に立った。 「じゃあまずは響玄先生からお知らせ」  響玄はぺこりと全員に挨拶をすると、すっと薄珂の肩を抱いた。 「薄珂を天一の後継者に任命いたしました。華理への事業拡大を一任致しますが、これに当たり立珂と共に華理へ移住させることと致しました」 「は!?」 「何ですって!?」 「ああ、ご安心を。薄珂は既に契約を一つ取り付けています」  天藍と護栄は驚きの余り机に激突し、卓上の茶がばしゃりと零れた。  そして護栄は薄珂の真意に気付いたのか、しまった、と言わんばかりの顔で麗亜を睨んだ。麗亜は嬉しそうに微笑むと、哉珂の肩をぽんと叩く。 「明恭は哉珂を筆頭に羽根事業の拡大をします。それにあたり華理と提携を取ることとなりました」 「ありえない! 公吠様は蛍宮以外に手を広げるつもりはないはず」 「もちろん知っています。まだ子供だったあなたにしてやられた愚かな契約でした。ですがそれは公吠との契約。契約の満了は公吠が退位する時」  麗亜はにやりと笑みを浮かべると、上質な紙を使った書簡を天藍に渡した。  天藍がそれを広げると護栄も覗き込み、二人は冷や汗を流して麗亜を見つめた。
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