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着替えと朝食を食べ終えると、薄珂は立珂を抱いて宮廷へと向かった。
職員しか使わない裏口から入り、一般職員では立ち入りが許されていない区画へと足を踏み込んだ。それは皇太子の私室と執務室がある区画だ。薄珂は豪華な扉の前に立ち、こんこんと軽く叩いた。
「天藍。入っていい?」
「ああ。いいぞ」
薄珂と立珂は一般職員どころか臨時職員でしかないのだが、特別に立ち入りが許可されていた。その理由はこれだ。
「おはよう。朝から伴侶の顔を見れるとは良い日だ」
「……うん。おはよ」
天藍は薄珂の頬を包むように手を添え、親指でそっと撫でた。
薄珂は天藍と伴侶契約を結んでいる。これは血の繋がりがない者同士が家族になったことを証明する契約だ。婚姻は夫婦に限定されるが、伴侶契約はそれ以外の関係になる制度だ。
これにより薄珂は蛍宮国籍を得た。業務上国籍が必要だったためというのもあったが、こんなのは書類上の出来事に過ぎない。
けれど天藍とは立場が違うこともあり、自由に会えない時がほとんどだ。そんな状況の中でも伴侶契約は誰かに関係を認められていると示す物でもあり、それはほんの少し薄珂の心を落ち着かせてくれた。
しかし元から家族なのは立珂だけだ。それを自慢するかのように、立珂が薄珂と天藍の間に割って入った。
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