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天藍の執務室へ入ると、大量の書類に向かっている護栄がいた。
護栄は礼儀に厳しいのでまずは挨拶からと思ったが、薄珂が声をかけるのを待たずに立珂はぴょんと薄珂の腕から飛び降り護栄に抱き着いた。
「ごえーさまー!」
「ん?」
護栄がこちらに気が付く前に立珂は飛びつき、いつも冷静な護栄もこれには驚いたようだった。
立珂は成長したことに感想が欲しいのか、にこにこと笑顔で護栄の言葉を待っている。鬼才と恐れられる護栄もこの愛らしさには弱いようで、穏やかに微笑むと立珂を抱き上げた。
「成長期ですか。おめでとう御座います」
「えへへ~。おっきくなるからちっちゃくなったの!」
「俺と反応違いすぎないか?」
「立珂は護栄様大好きだからね」
先ほど睨まれた天藍は不満げに口を尖らせたが、それを見た護栄はこれ見よがしに立珂へ頬ずりをした。立珂はきゃあと嬉しそうにはしゃぎ護栄にぎゅうっと抱き着いている。
天藍は不貞腐れたが、負けじと薄珂の隣に立った。
「仕事はどうするんだ? 立珂の側にいた方が良いだろう」
「うん。その相談したいんだ。終日勤務は無理かも」
「もちろん構いませんよ。元々都合の良い時だけ出勤するという契約です」
薄珂と立珂は宮廷で仕事をさせてもらっているが、一般職員とは違う臨時職員という雇用形態だ。
薄珂の目標は自立し一人で立珂を養うことだ。けれど立珂の側を離れることはできないので、響玄のように商人として自営業することを考えていた。しかし経営というのは思いのほか難しく、誰かに雇ってもらう方が自由が利く。そんな時、護栄から宮廷で働いてみないかと誘われ今に至る。
立珂も大好きな侍女とも遊べるので毎日大喜びだ。この後も侍女に会うのを楽しみにしているが、天藍は、ふうん、と困ったように息を吐くと目を細めた。
「何かある?」
「ああ、いや。立珂に作って欲しい物があったんだ。だが難しそうだな」
「そんなことないよ! ちっちゃいだけだからへいき!」
「立珂に無理のない範囲だったら構わないよ。何作るの?」
「そうか。じゃあちょっと付いて来てくれ。見せたいものがある」
天藍と護栄は顔を見合わせると小さく頷き、執務室から出て庭園の方へと向かった。
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