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給食のシステムがなくなった高校の昼休みは、中学までとは違った種類のざわめきにあふれている。
お弁当のふたを開けると、白ごまとしゃけの手まりおにぎりが並んでいた。その隣にはタコさんウインナーと卵焼きがあって、奥にはブロッコリーと花型にくりぬかれたにんじんがそえられている。
「わ、相変わらずおいしそう〜」
机を突き合わせた実鈴が、両目を輝かせた。
正樹さんが用意してくれるお弁当には毎回こだわりがつまっていて、昼休みが来るたびに気分は宝箱を開ける冒険家だ。
けれど最初は申し訳ない気持ちがあって、簡単なものでいいですからと以前伝えたことがある。私のお弁当で、開店前のゆったりできる時間を取らせたくなかった。
「こらこら。僕はこれでも料理のプロのはしくれなんだから」
笑いながら言うと、私の頭を小突くふりをした。
正樹さんの、仕事に対する誇りを垣間見た出来事だった。この日以降、余計なことは気にせずに純粋にお弁当を楽しんでいる。
「そういえば、実鈴は子どもって好き?」
昨日のことを思い出して、ふと気になったことを尋ねてみた。
「かわいいし面白いから、普通に好きだよ。元気でいいよね」
購買で買った特大メロンパンを頬張りながら、あっけらかんと答えてくれた。清々しく言い切られてしまうと、悩んでいる自分がちっぽけに感じられる。
「なんというか、さすがだね。食べる?」
「食べる!」
卵焼きをピックに刺して持ち上げると、実鈴は喜んだ様子で受け取った。
本田美鈴とは、出席番号が前後というよくある理由で仲良くなった。表情豊かではつらつとした実鈴との初対面時は、こりゃあタイプが違うから合わないな、とひとりで勝手に遠い目をしていた。しかしおしゃべり上手の実鈴の話は聞いていて楽しく、不思議と馬が合って一緒に過ごしている。女子の一部が見せているグループ再編のうごめきにも、巻き込まれずに済んでいた。
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