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乗り換えのために広い駅構内を渡り歩きながら、都心にいることを改めて実感する。
公立中学校に通う神奈川県民から都内の私立高校に通う東京都民になったのは、私の中では確かな変化だった。今まで日常的に目にしていた富士山の頭は、夜更けについてくる月のような当たり前のものだと思っていた。それは私の思い込みで、引っ越してきてからは富士山を見る機会が消えた。代わりにスカイツリーのてっぺんなら見える。
改札口で電光掲示板を確認すると、あと一分で電車が来るらしい。
間に合いますように。人の流れに沿ってエスカレーターに乗って、じりじりとホームに着くのを待つ。
ディドルに帰ってきて真っ先にお弁当のお礼と感想を伝えると、正樹さんは「いえいえ」と嬉しそうに眼鏡の奥の目を細めた。
キッチンの奥にある階段から、二階の住居へ上がる。荷物を置いてお弁当を洗い、自分の部屋でさっと着替えた。実際はカーディガンを脱いでリボンを取った上からエプロンをつけただけなので着替えというほどのものではない。最後、鏡の前でポニーテールが崩れていないかチェックした。
「先に何かやることありますか?」
店内に戻って瞳子さんに尋ねると、オレンジソーダがのせられたトレーを手渡された。
「これ、しーちゃんにお願いします」
しーちゃんは隣の大きな一軒家に住んでいる篠崎さんご一家の末っ子で、徒歩ゼロ分とはいえカフェにひとりで来れる肝の据わった小五だ。
篠崎さんたちはみんなこのお店に通ってくれていて、家族みんなで来ることもあれば、一家の誰かがひとりでやって来ることもある。示し合わせているのか偶然なのか、ひとり同士が鉢合わせることはない。
「運ぶついでに、直人くんを助けてきてあげてください」
「はあい」
カウンター席の奥では、横の席に座らせられた伊坂が質問攻めにされていた。珍しく気圧されている。
「お待たせしました、オレンジサイダーです」
席の後ろからドリンクを置くと、伊坂は助かったという顔をして私の左腕をつかんだ。
「しーちゃん、今からは俺とバトンタッチしてこのお姉さんに話聞いてみない?」
「え。……いちおう伊坂を助けろとは頼まれてるけど、私が話すのはちょっと。この子と話したことないし、そもそも私は小学生以下は無理だって」
無理やり座らせようとしてくる伊坂に、小声で抗議する。
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