曇天だけが知っている

　ヒロの横顔を見ては好きという想いが募り、瞬間的に湧き出る希望を地面に書いては、すぐに現実に引き戻され、曇天に雨を願う。何も生み出さない無駄な行動とも言えるが、メグは秘密の儀式を続けた。

〈There is no remedy for love but to love more〉

　もっと、もっと愛するということ以外には、恋の悩みに対する救済策はない。

　その日も、夕方から雨の予報が出ていた。メグはこの言葉を地面に書き雨を待ったが、この日の曇天はいつもと違う態度を見せる。夕方を過ぎて夜になっても一滴も雨を降らさなかったのだ。ソワソワしながら眠りについたが、朝起きてみてもどんよりとした雲が広がっているだけで、雨が降った痕跡はなかった。
　きっと午前中には降り始める、そう期待して窓の外をチラチラと見ていたが、曇天はメグを焦(じ)らし続ける。こうなれば、やる事はただ一つ。