曇天だけが知っている

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 早食いが苦手なメグだが、この日ばかりは頑張って給食をかき込み、秘密の場所へと走った。早く消さなければ。誰かに心の内を知られる前に、自分であの文字を消さないと。ゴール間近のランナーを応援するかのように、木々がザワザワと一斉に葉を揺らす。息を切らしながら角を曲がって校舎裏にたどり着くと、そこにはあるはずのない人影があった。驚きのあまり、今まで聞こえていた木々のエールが一瞬止んだようにメグは感じた。   「ヒロく……瀬崎くん?」    最も秘密を知られたくない相手がそこに立っていた。ヒロは、地面にはっきりと残ったままの言葉を見つめていたが、メグの気配に気付き顔を上げた。   「里中」」   「瀬崎くん、どうしてここに?」    自分みたいな人間がヒロと口を利いてもいいのか戸惑ったが、メグは勇気を出して言葉を絞り出した。   「いや俺、休み時間にはゆっくりと本を読みたいんだけどさ、いつも女子に囲まれちゃうだろ?なかなか解放してもらえないから、今日は一足先に逃げてきたんだ。どこか静かな場所ないかな〜って探してたらここを見つけて……」    自分の名前をヒロが覚えていてくれた上に、会話までできた喜びよりも、今はただ秘密を知られた恥ずかしさの方が上回っていた。   「これ、もしかして里中が書いたのか?」   「うん……」    恥ずかしくてヒロの顔も見られない。メグは震える手を後ろに隠し、うつむいたまま地面からちょこんと顔を出している雑草を見つめ続けた。
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