暴虐聖女

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無理矢理押し入ったアマンダの部屋には、アマンダと侍女が3名。 アリスがシカトしていたせいか、アマンダは膨れっ面で機嫌が悪い。 「アマンダ、大事な話がある。人払いしてくれ」 「嫌よ」 イラッとするアリス。 「アタシが払ってもいいんだぞ?」 「あなた達、すぐに下がりなさい」 「わかればいいんだよ」 もうなんなのよとブツブツ文句を垂れるアマンダに、アリスはにっこり笑いかける。 「実は頼み事があるんだ。大至急王子に取り次いで欲しい」 「……人を脅しておいて頼み事とはね」 「今更だろ?」 「そうね……それで?」 「お前にとっても悪い話じゃない。以前言ってた階級制度がどうのこうの、全面的に協力してやる。その見返りに、アタシに味方しろ」 「味方って、何の?」 「それは王子に話す。勿論その時お前も同席してていい。むしろ同席して私に加担しろ。そうしたらお前の夢の為にアタシを好きに使える。悪くないだろ?」 「……」 「……」 アマンダは散々考え抜いた末、わかったわと嘆息した。 その頃王城で王子も嘆息していた。 事は数日前、宿屋の娘を自分の妻だと言って、強引に連れ去ろうとした貴族がいた。通報を受けた騎士団が事情を聞くと、妻が誘拐されて行方知れずだったが、その宿屋で見つけた事、誘拐犯に脅されて離婚したが、まだ妻を愛している事、妻も戻りたいはずだと訴えた。 妻とされた娘に話を聞くと、こんな人は知らないと怯えて泣かれた。 このままでは埒が明かないし、放置していれば貴族がまた無茶をしかねないので、騎士団で調べてみることに。 そうすると確かに、その娘とよく似た特徴の娘が貴族の元へ嫁いでいた。 しかし宿屋の近所の者たちは、あの子は老夫婦の娘さんだという。 となれば、他人の空似を貴族が誤解しただけということになる。 そうなると、誘拐された妻は何処へ消えたのか?何故妻が誘拐されたのか? その辺を調べようとしたら、途端に貴族は非協力的になり、妻の捜索は必要ないと、アッサリと身を引いた。これは怪しい。 諜報を動かして探らせてみれば、出るわ出るわ悪事の山が。 ひとまず騎士団は、その貴族をしょっぴいた。 とはいえ、妻はどうもその悪事とは無関係の様子。それどころか貴族は愛人を本宅に囲って、妻は物置に押し込められていたことがわかった。しかも逃げられないよう足の腱を切られた上でだ。 あの宿屋の娘は本当に貴族の元妻かもしれない。しかし誘拐されたのをいい事に、戻りたくなくて近所も巻き込んで嘘をついている可能性が出てきた。しかも娘は足の腱を切られていたはずなのに、立って歩いていた。 これは最初から彼女を家から逃がすための誘拐だった節すらある。 「困った事に当事者からは被害の訴えはないので、誘拐事件として立件する事が出来ません。それに娘の足が治っているということは……」 「神殿あるいは教会の関与があるかもしれない、と」 「はい。一応聖女アリス様に、協力を依頼しております」 「そうか」 第2騎士団長からの報告を聞いて、王子も難しい顔をしている。通報もされず捜索願いも出されなかった誘拐事件。しかも被害者が被害を訴えない。 確実に事件は起きていたのに、これでは何も起きていないのと同じだ。 お手上げだ、と宙を仰いだところで、侍従が来客を告げた。アマンダが来たらしい。 入室を許すと、申し訳なさそうなアマンダと、何故かアリスも入ってきた。 「先触れもせず申し訳ありません」 「何か火急の要件か?」 「それがその……」 デスクからソファに移動しながら尋ねると、アマンダはそろりとアリスを見やった。要件があるのはアリスらしい。 ちらりとアリスは第2騎士団長を見やる。 「人払いが必要な話か?」 「いいえ。丁度良かったと思っておりましたの。騎士団長様も一緒にお聞き頂けます?」 「構いませんが……」 戸惑いながらも騎士団長が王子の背後に控えた。それを確認してから、アリスが口を開く。 「実は私、ちょっとしたオイタをしてしまいましたの。それで騎士団に目をつけられそうでしたので、殿下に揉み消して頂きたいのです」 「「「は?」」」 王子、アマンダ、騎士団長の声が綺麗にハモった。しかも3人とも同じように呆けた顔をしている。 「実は先程、騎士団より誘拐事件の捜査協力依頼が届きましたの」 「はい、確かにお送りしました」 「でも私、協力出来ませんわ。だって私が主犯なんですもの。ですから私が捕まる前に、揉み消して頂けません?」 王子はたっぷり息を吸い込んで、盛大に叫んだ。 「確保ォォ!!」
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