暴虐聖女

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この事件は周辺の教会に激震をもたらした。めっちゃ強くてめっちゃ性格悪い聖女。割と最悪な存在である。これは放置していたらまずい。 教会は王都本部の神殿に相談する事にした。しばらくして、そんなに強いなら捨てるのも殺すのも勿体ないから神殿に移送しなさいコッチで躾けるから、という返事が来た。ハッキリ言って手に負えなかったので、関係者は狂喜乱舞した。 神殿に移ることになったと聞いて、アリス自身も、腰掛け聖女監禁事件のせいだろうとは思った。だが、あの後から腰掛け聖女達が色々貢いでくれるので、彼女達と離れるのは少し勿体ないと思った。 「じゃあコイツらも連れてく」 そう言ったアリスに、腰掛け聖女達が蒼白になったのは、言うまでもない。しかし、流石にそれはダメだと言われた。アリスは文句は言ったが引き下がった。 震えながら伝達した神官も腰掛け聖女達も、冷や汗でびっしょりになったが、理解してくれてありがとうと心から感謝を述べた。 こんなに心から感謝を抱いたのはいつぶりだろうか、神にだってこんなに感謝したことはないのに。彼らはその日から真剣に祈るようになった。 何故か神官達に感謝の気持ちを思い出させたアリスは、王都へ向かう馬車に揺られていた。 「まだつかねーのかよ」 「あと5日くらいかかるってよ」 「そんなにかかるのかよ、めんどくせー」 「しょーがねーだろ」 馬車旅にすっかり飽きたアリスは、御者役の神父見習いに愚痴っていた。 「もう、アリスってば。そんなこと言ってもリックにもどうにもならないよ」 「わかってるよー」 腰掛け聖女がダメなら、従者として孤児院から仲間を連れてきてもいいかと聞いたら、そちらは快諾してくれた。 喜び勇んだアリスは、神官の静止も振り切って、孤児院からリックとマーサを連れ去った。誘拐である。 「ケチケチすんなよ、2人も同意してんだから。ついでに残りのヤツらも引き取ってくんね?どーせあの孤児院は人買い牧場だから、教会の権力で潰せよ」 何から何まで無茶苦茶である。他の子ども達が無事引き取られた事は、つい昨日追いついた連絡で知った。 子ども達の証言を元に領地の騎士団が動いて、院長初めとした職員は全員逮捕されたそうだ。 「いつか絶対殺してやろうと思ったのにねぇ」 「そこだけは残念だなぁ」 「心配すんな。どーせアイツら懲役刑だろうから、そのうちシャバに出てくる」 「なるほど!やっと出られたって喜んでるタイミングで殺るのね!」 「あっはは!それ良いな!」 物騒な話をしながらも、3人は王都へ向かった。 王都の神殿に到着すると、アリス達は筆頭聖女に引き合わされた。 クラリス・ロマイシン大聖女は、御歳98歳のおばあちゃんと聞いていたが、見た目には50代位にしか見えなくて、とても驚いた。 「あれ?大聖女様はババアじゃないのか?」 「うふふ」 穏やかに微笑んだ大聖女は、アリスに目を向けると口を開いた。 【無礼者】 大聖女の声と共に発された威圧感に、アリスは押さえつけられるようにくずおれた。 「なっ」 【その程度で私に歯向かおうなど、百年早いわ】 アリスとて、敵わない事は一瞬で悟った。地方都市の教会でトップでも、世界は広い。上には上がいるのだ。 だからと言って、元々負けん気が強くまだ12歳のアリスは、ムキになって叫んだ。 「うっせー!ババア!」 【やれやれ……】 椅子から立ち上がった大聖女が、アリスに歩み寄る。さしものアリスもビビったので、結界を張った。 だが大聖女は拳を振り上げたかと思うと、目にも止まらぬ早さで振り下ろした。 結界が割れる音が響いた時には、頭を揺らす衝撃と共に、意識を失った。 その翌日から、大聖女によるスパルタ教育が始まった。礼儀作法、言葉遣い、神聖言語、神学、歴史、儀式典範、聖魔法学などなど……。 隙あらば大聖女に攻撃を仕掛けたが、いつも返り討ちにされた。攻撃してはボコボコにされて座らされ、逃げようとしてはボコボコにされて転がされ。 悔しかったが勝てないので、今に見てろと憎悪を燃やしながら、大聖女のスパルタ教育に食らいついた。 大聖女は、真面目にやっていればボコらないし、上達したらちゃんと褒めてくれた。 「ババアは悪いヤツじゃない。でもムカつく」 「そんなこと言って。ホントは結構好きなくせに」 「ふんっ」 リックがからかってくるので、口を尖らせる。 大聖女クラリスは、ものすごく厳しい。怒られるしボコられる。 でも、出来ないことが出来るようになった時は、いつも褒めて頭を撫でてくれる。撫でてくれたのは大聖女が生まれて初めてだった。 彼女の昔話を聞くのは好きだ。いつも笑顔だし、めちゃくちゃ強いし、そういうのは凄いと思う。 でも、それを人に指摘されるのは恥ずかしい。
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