暴虐聖女

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アマンダが言うには、貧民や孤児がいるのは、国の政治体制の問題であるという。 子どもを捨てるのは親が悪いと思っていたアリスは、アマンダの話を聞いて面食らった。 「は?政治のせいってどういうことだ?」 「親が子どもを育てられないほどに、生活が困窮しているということよ。親が貧困なのは、親自身の責任もあるけれど、民を富ませない体制に問題があるのよ」 「富ませない?わざとなのか」 「そうよ、それが階級制度よ」 その言葉にアリスは目を剥いた。これまでアマンダは散々身分をひけらかしてきたし、自身が公爵令嬢という事に誇りを持っているようだった。 それなのに、その根本である階級制度を批判するのだから、アリスが驚かない訳がなかった。 アリスが驚く理由をアマンダもわかっているのか、どこか所在なさげに視線をさ迷わせる。 「どの口がと思ってるのでしょ。でも、それとこれとは別問題よ」 からかってやりたいが、既にアマンダは顔が真っ赤なので、容赦してやる。 「階級制度が問題って、具体的にどういうことだ?」 気を取り直し咳払いしたアマンダが説明するには、そもそも階級は血筋で受け継がれる。優れた親の子なら優れているはずだ、という考えに基づく。あるいは自身の持つ権能を愛しい子に与えたいという思惑もある。そうして生まれたのが階級制度だ。 しかし、親が優れているからといって、子もまた同じとは限らない。王族だって賢王もいれば愚王もいた。 そして、平民が皆力なき愚か者とも限らない。 「その象徴がアリス、貴女よ」 「アタシ?」 「ええ、孤児でありながら、聖女筆頭にまで登り詰めた。貴女だけでなく、何らかの才能を持つ人は、平民にも多くいるはずよ。農村で毎日麦を育てている農民の中にも、もしかしたら剣術の天才がいたかもしれないわ。毎朝冷たい水で洗濯している下女が、天才的な頭脳を持っていたかもしれない。辺境の開拓村で、奴隷の子として生まれた子どもの中には、魔法の天才がいたかもしれない」 「その才能を潰してきたのが、階級制度ってわけか」 「そうよ。そういった平民の天才達に、立場を揺るがされることを恐れた、だから生まれたのよ。階級制度というものはね」 「なるほどね。魔法も剣も勉強も、貴族じゃなきゃ教わることはないからな……親が知らないことを、子どもも知ることは無い」 「その通りよ。階級制度は発展の妨げにしかならないし、不幸な子どもを生み出すだけだわ」 そう言い切ったアマンダに、アリスは感嘆した。 「お前、実は凄い奴だったんだな」 「ふんっ、今更でしてよ」 照れ隠しで顔を背けるアマンダに、アリスは耐えきれずに噴き出した。 アリスがゲラゲラ笑うので、アマンダは居た堪れないのか真っ赤になっている。 「いいね、見直した。お前のそーゆーとこ、嫌いじゃないぜ。それで、アタシは何をしたらいい?」 アリスの言葉で気を取り直したアマンダが、公爵令嬢らしい優美な笑みを浮かべた。 「その言葉を待っていたの」 その言葉を聞いて、アリスはスンと表情をなくした。 「ハメられたみたいで気分わりぃから、やっぱナシ」
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