暴虐聖女

7/16
前へ
/16ページ
次へ
あれからしばらくアマンダに付きまとわれたが、「お前は公爵令嬢で次期王妃のクセに、孤児の力を借りなきゃなんにもできねーのか?」と煽ったら、まんまと絡んでこなくなった。 それからアマンダはそれなりに頑張っているそうだ。大して興味もないので、何をしているかは知らない。 「アリス、また騎士団から手紙ー」 「おう」 そんなある日リックが手紙を持ってきた。多分また魔物討伐の同行依頼だろうと予測して封を開けたが、アリスは「げっ」と呻くと頭を抱える。 「やべぇ」 「どした?」 「副業が摘発されるかも」 「ヤバいじゃん!」 実はアリス、副業もしている。こちらは趣味程度の片手間であったが、騎士団にバレるとかなりヤバい副業である。 盗賊ギルドによる誘拐事件が発生していたことがわかった。これには聖女あるいは神官も関与している疑いがあることから、調査に協力して欲しい、とのこと。 協力どころか主犯はアリスである。 「くっそー、誰だゲロった奴」 「攫った子が何も考えないで喋ったかもよ」 「有り得る……くそ、脅しときゃ良かった」 そう、アリスの副業とは、盗賊ギルドと提携しての誘拐である。 事の発端は数年前。まだアリスが孤児院にいた時のこと。 アリスの3歳ほど歳上に、ベルという女の子がいた。ベルは両親と死別して、スラムでゴミ漁りしていた所を孤児院に拾われたらしい。 アリス同様にやせ細ってみすぼらしがったが、綺麗な娘だった。 そんなベルを、ある日貴族が買い取った。貴族に買われるのは勝ち組だとくそばばあが言っていたのを覚えている。 その貴族の名前は分からなかったが、顔は覚えていた。 その貴族を、アリスは偶然城のパーティで見かけたのだ。 「殿下、あの方のお名前はなんですの?」 「黙れ、私に話しかける……痛っ!」 「あの方のお名前を教えろくださいませ」 王子の足を踏みながら貴族の名前を聞き出した。気になっていたので話しかけようとすると、アリスと王子の前に、するりと一人の令嬢が回り込んだ。 「殿下っ、初めましてっ!ベルティーナ・クリンですっ!ご機嫌麗しゅう」 金髪のクリンクリンのツインテールを揺らした令嬢が、媚び媚びの笑顔で王子に話しかけた。あまり夜会などには出ないアリスでも、見た事のある令嬢だ。夜会なんかには頻繁に出ているのかもしれない。 これをアリスがやったら不敬だと王子は騒ぎそうだが、流石に令嬢相手にキレたりはしなかった。それでもどこか不機嫌そうではあった。 「あぁ、クリン男爵令嬢。夜会は楽しんでいるか?」 「はいっ!殿下にお会い出来ると思って、めーいっぱいおめかししてきたんです!いかがですか?」 その場でクルリとターンを決めるクリン男爵令嬢に、王子は「よく似合っている」と、貼り付けた笑顔で答えている。 ふと、クリン男爵令嬢がアリスを見た、すると瞳を潤ませ、王子の腕に縋り着いた。 「怖いっ!そんなに睨まないでっ、殿下助けてください!」 「……」 「……」 多分、アリスと王子が以心伝心したのは、この時が最初で最後だったろう。 なんだこいつ。 「……あー、アリスは疲れたようだ」 「……そうですわね。少し下がらせていただきますわ。殿下もお疲れでは?」 「そうだな。というわけでクリン男爵令嬢、我々は失礼する」 「えぇ〜っ」 そそくさとその場を後にすると、廊下に出た2人は揃って溜息をついた。 「殿下、先程の方は……」 「先程貴様が尋ねた貴族の娘だ。亡き兄の遺児を引き取ったとか何とか……どこまで本当やら知れたものでは無い。あのザマではな」 やはり、とアリスは考え込む。教えて貰った貴族の名前はクリン男爵。彼女の名前はベルティーナ。ならば彼女がベルなのだろうか。確かに見覚えはあるし、見覚えがあるのが夜会で見かける以前からだったかもしれない。 しかし、ベルはあんな女の子ではなかったと思う。 自分は見た目が良いからあんまり殴られないの、なんて言って、下の子達を守るような女の子だった。それが何故? 「私はしばらく時間を潰して会場に戻る。貴様は帰るなりなんなり好きにしろ」 「ええ」 夜会で王子に放置されるのはいつもの事なので気にしない。それよりベルだ。 別行動になったのをいい事に、アリスは一度会場に戻った。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加