暴虐聖女

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ベルを探して会場を進む。ドレスや紳士服が泳ぐ会場の一角から、キャピった声が響いている。ベルだ。 少し離れたところから様子を見ていると、近くの貴婦人達の囁きを拾った。 貴婦人曰く、クリン男爵令嬢は、相手に婚約者がいようがお構い無しに、声を掛けて回る尻軽令嬢。 マナーもなっていないし、大抵の人にはあしらわれているが、一定数鼻の下を伸ばす男がいるから始末に負えない。 どれほど顰蹙を買っているか……とのこと。 そりゃあの態度だ、女性ウケは最悪だろう。 しばらく噂を聞きながら観察していると、ベルがクリン男爵と共に会場を出ようとしていた。 アリスはすかさず幻影の魔法で姿を眩ませて、2人の後を追った。 庭園の隅の木立の影で、クリン男爵がベルを叱責していた。 「殿下に声を掛けるのはやりすぎだ!その程度の事もわからんのか!このゴミクズが!」 「申し訳ありません」 「まぁいい、伯爵から侯爵辺りで籠絡出来そうな者に目星はついた。早々に結果を出せ。お前ももう17だ。とうが立っては価値が下がる」 「はい」 「18までに結果を出せねば、ダミアンに下げ渡す」 「……はい」 クリン男爵が立ち去るのを見送り、未だ木陰にいるベルを見ると、暗くてよく見えなかったが、すすり泣いている声が聞こえた。 アリスは幻影を消して歩み寄る。 「ベル」 近くまで寄って声を掛けると、ベルが涙に濡れた顔を上げる。暗がりのアリスに気付くと、ベルは一層泣き出した。 「アリス、やっぱりアリスなのね?」 「うん、やっぱりベルか」 「アリス!アリス!やっと気付いてくれた!」 泣き出したベルが抱きついて来て、何が何やらわからなかったが、アリスはベルが落ち着くまで背中を撫でた。 2人で近くのベンチに腰掛けた。アリスの渡したハンカチで涙を拭くと、ベルはポツリポツリと話し始めた。 ベルの顔立ちが美しかった事、金色の髪と緑の瞳が、クリン男爵の亡き兄に似ていた。それでベルは引き取られたそうだ。 当時12歳だったベルは、自分も貴族のお姫様になれると、初めははしゃいだらしい。 だが実情は違った。 デビュタントの15歳を迎えるまでは、下女と変わらない扱いで、日々労働を課せられた。 15になる前からマナー講師を付けられたと思ったら、夜会で高位貴族の子息を籠絡するよう命令された。 それを拒否すると、食事を抜かれ、監禁され、義理の兄から性的な嫌がらせを受けた。 「じゃあダミアンてのは」 「お義兄様よ」 義兄のせいで、既にベルは男性恐怖症になっていた。それなのに男に媚びを売ることを強要される日々。 心も体もボロボロだったある日、アリスが王子の婚約者として現れた。 ずっとチャンスを伺っていた。先程王子に声をかけたのは、王子がターゲットではない。 アリスへのSOSだった。 「虫がいいのはわかってる。私だけあの孤児院から逃げたって、恨んでるかもしれない。でも、でも、もう耐えられないの。アリスしか頼れないの。お願い、助けて……」 元々恨んでなどいない。あの優しいベルが、幸せになったとみんな喜んでいたくらいだ。 涙ながらに縋り付くベルを抱きしめて、アリスは不遜に笑った。 「任せとけ」
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