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王都の裏町。マフィアや盗賊の蔓延る危険なエリア。
そのうらぶれた区域にある酒場のドアを乱暴に開け放つ。
「よう、お前ら景気はどうだ?」
「ウッスお嬢!上等っす!」
「それは重畳」
元々裏町育ちのアリスである。王都の裏町を牛耳る盗賊ギルドは、既にアリスの傘下だった。
「マイケルを呼べ」
「あいよ」
そうして呼ばれたのは、両手に美女を侍らせたガラの悪い男だ。この盗賊ギルドのボス、「不殺のマイケル」と呼ばれる一流の盗賊だ。
「随分ご無沙汰だな、お嬢」
「あぁ、息災か?」
「ボチボチな。それで?」
「仕事を持ってきた。金になるぜ」
「へぇ?」
アリスの差し出した書類をマイケルは読み進める。しばらくすると顔を上げた。
「期限は?」
「早ければ早いほどいい。ある程度情報は揃ってる。2日後。イケるか?」
「いいぜ。身代金は?」
「2割アタシ。好きなだけ吹っ掛けろ」
「流石お嬢!そう来なくっちゃ」
「頼めるか?」
「頼まれた!」
最初盗賊ギルドと揉めた時は皆殺しにしてやろうかと思ったが、このマイケルは中々使える男だったので、変に逆らわなければ融通するということで手を打ったのだ。
お陰でアリスも楽ができる。
そして2日後。
茶会帰りのベルの乗る馬車を、白昼堂々襲撃し誘拐。侍女と御者は無事に帰した。脅迫文を持たせて。
貴様の娘は我々が預かっている。返して欲しければ3日後の水の日6の鐘が鳴る頃に、金1千万を用意して、クリン男爵本人が中央広場の噴水の前に来い。
尚、騎士団に通報したり、規定の日時に金を持って現れなかった場合、貴様の悪事を告発した上娘は帰さない。
貴様がラーラ大橋建設費を水増し請求した証拠は揃っている。
脅迫文を読んだクリン男爵は蒼白になった。ラーラ大橋の建設は国家事業であり、この不正がバレたら爵位剥奪所の騒ぎでは無いからだ。
クリン男爵は家中の金目の物を換金し、どうにか期限までに金を作った。
そして言われた通りの水の日に、金を持って噴水の前で待った。
すると近くで何やら騒ぎが起き、クリン男爵が気を取られた一瞬の隙をついて、金がスられた。
クリン男爵は泡を食ったが、その後誘拐犯から連絡はなく、ベルも金も行方知れず。
クリン男爵の悪事は、未だ白日のもとに晒されてはいないから、クリン男爵は安心した。
それから1週間後、安心した男爵が誘拐を訴えるべきかと悩み始めた頃に、執事が手紙を持ってきた。
我々は常にお前を見ている。命が惜しければ娘を除籍しろ。
そう書かれた手紙に男爵は震え上がり、翌日にはベルは平民に戻った。
「ねぇアリス、私はこの恩をどう返せばいい?」
「あのなぁベル、アタシがやっとこさベルに恩を返せたんだぞ。これで手打ちにしてくれよ」
「アリスったら……」
恩返し合戦なんて御免だね、と嘯くアリスに、地方の孤児院にシスター見習いとして赴く事になったベルは、泣き笑いした。
この事件に味をしめたのか、マイケルからもっと子どもを誘拐したいと言われた。
悪いヤツの噂なんか、夜会ではあちこち囁かれるので、アリスも面白半分で情報提供した。
虐待されていた子どもを心ある商人に預けたり、冷遇されていたご夫人を優しい宿屋の老夫婦に預けたりした。
預け先は見習いシスターとして、懺悔室やボランティアに顔を出すマーサが選別してくれて助かった。
中には窮地から救ってくれたマイケルに憧れて、盗賊ギルドに入るガキんちょもいたが……。
「アリス、どーする?」
「とりあえずマイケル達には、ほとぼりが冷めるまで身を隠せって連絡してくれ。大至急な。アタシは王子に面会する」
「わかった」
すぐさま退室したリックを見送り、アリスはアマンダの部屋へと向かった。
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