つむぎの証言

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つむぎの証言

……………………… 〈中村つむぎの証言〉  私はどういうわけか、幼い頃から自尊感情をあまり多く持ち合わせてはいませんでした。  勉強もスポーツもそれなりにできたし、なぜなのか、自分でもよくわかりません。  ただ、幼なごころに、こんな私を愛してくれるひとなんて、決して現れないだろうという確信があったのです。  だから、生涯ひとりでもいいように、弁護士の資格を取って、生計を立てていこうと考え、法学部に入りました。  そこで声を掛けてきたのが、白鷺琢磨だったのです。  こんなに魅力的なひとが、私のことを追いかけてくれるなんて、にわかには信じられませんでした。  私は彼の愛を、何百回も何千回も試しました。  抜かりなく結婚に持ち込めて、よかったと思いました。  でも結婚してみて、気づいたのです。  彼は、私が逃げるから、ただ追いかけていただけなのだということを。  追いかけることが目的化してしまっただけで、私のことを見てはいなかったのです。 いまさら振り向かせようとしても無理でした。  こんな結末になってしまったけど、彼のことを恨んではいません。彼は追いかけ続けるひとだから。  この先も、大きななにかを追いかけ続けるに決まっているから。  白鷺琢磨の今後の活躍に期待します。  短い間だったけど、結婚生活という夢のような体験ができて、ふたりの子供の母親になれて、しあわせでした。  ありがとうございました。 【おしまい】
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