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白鷺琢磨という少年
白鷺琢磨は、昭和四十三年、芸術家の家に生まれた。
琢磨が生まれたときにはすでに、父親は上野で行われる国展に毎年出展するような、日本でも指折りの画家であった。母親は子供たちに絵を教えるための教室を開いていた。
琢磨も母の教室に参加して、絵を描いたり工作をしたりしながら幼少期を過ごした。
だれかがからかって琢磨の顔に絵の具でもつけようものなら、そいつに馬乗りになって、ごめんなさいを言うまで絶対許さない、たとえ年かさでも。
負けん気が強いくせに愛嬌もあるから、ひとを引き付けて離さない。琢磨はそういう少年であった。
幼い頃の琢磨は、世田谷の地元では天才少年として通っていた。
白鷺先生の息子さんは、非常に独創的な絵を描く。加えて破天荒で、幼いながらに容姿もいい。お父様とお母様の血を引かれている天才だ、と。
果てはピカソか、はたまたゴッホか。人々は好き勝手に騒ぎ立てた。
琢磨の絵が独創的だったのは、特にその色使いにおいてであった。ひとの顔を緑に塗ったり紫に塗ったりしては、周囲を驚かせた。
だから母親が異変に気付いたのは、通常よりもだいぶ遅れてであった。
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