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エピローグ
朝起きると、リビングからテレビの声が聞こえてくる。身だしなみを整え、忘れ物を確認した勇希が玄関へと向かう。
ちょうど玄関で靴を履く時に聞こえてくるのは、それは彼がいつも見ることのなかった天気予報だ。
"今日の天気は、雲一つない快晴となるでしょう"
“でも天候の急な変化には、くれぐれも注意してくださいね”
“折り畳み傘はお忘れなく”
“では、良い一日をお過ごしください”
「行ってきまーす」
天気予報を見るようなことは相変わらずないが、漏れてくるアナウンサーの声に耳を傾けるくらい、気にするようになってきたようだ。
「今日は一日、晴れるな」
勇希は気持ちよく、玄関のドアを開く。
するとそこには………、
「あ、おはよう。一緒に……行こう??」
彼にとっては、朝日よりも眩しく思える雫の姿が、扉の向こうに待っていた。
「待っててくれたのか。ごめんな」
「いいよ。私、待つのは嫌いじゃないから」
雫は笑顔でそんな事を言いながら、右手を勇希に向けて差し出した。
「俺もだ」
差し出されたその手を握り、並んで一歩一歩確実に踏み出して行く。いつしか二人の距離は、傘がなくとも肩同士が触れ合うほどに縮まっていた。
「最近の天気予報、外すことあるよね」
「予報だからな、外すこともあるさ。走ってでも帰ればいい」
「駄目っ!私がそんなことさせない。一人で帰ることになるし」
「冗談、置いて行かないよ。絶対に」
二人の間には、いつでも青空が広がっている。
“天候は急に変わっても――”
“俺の想い――”
“私の気持ちは――”
“いつまでも、変わらない”
「雨よ降れ!!!」と、大空に向けて叫べば、悪戯に雨が降ることもあることでしょう。
間違っても、“大切な人”に向かって叫ばないように。
楽しいことがある限り、心に雨は降りません。
降ることがあっても、傘を差してくれると信じて、
二人とも、行ってらっしゃい。
〜おしまい〜
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