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予報にない雨模様
天気予報――――。
学校に通う中で、天気予報を確認してから登校する生徒は、果たしてどれだけいるのだろうか。
あなたは、確認したことありますか?
「行ってきます」
朝――――。
起きるのか、起こされるのか。
眠い頭を働かせて服装と寝癖を直し、空腹を満たしてから覚悟を決める。開けるのを躊躇ってしまう玄関のドアを開けば、そこには眩しい太陽の光だ。
「学校か……」
とある田舎の高校に通う少年、黒岩勇希は天気予報を気にすることはない少年のようだ。
外は太陽が主役の青空が広がっている。もし、予報に雨が降るであろうと言われたとしても、「本当に降るのか?」と思ってしまう晴天だ。
「………っ!」
そんな勇希だが、学校に行くことが全く嫌ということではない。
布団から出ることは、非常に嫌で休みたいと思うのだが、一度学校へと歩みを進めれば、憂鬱など忘れてしまう。
「雫さん」
学校で授業を受けている退屈な時間や、勉強は嫌っていても、気になっている人はいるようだ。
席が近いという訳ではないのだが、同じ教室であるので、登校する度に姿を見ることができる。姿を見るたびにドキッという感覚が彼の胸を襲う。
「はぁ……授業………日本文学……退屈だなぁ」
キーンコーンカーンコーンという心を沼に沈めてくるような響きが鳴れば、退屈な時間が訪れる。
浅燈川雫。勇希が気になっている女子学生だ。
胸元に掛かるかというほどの、茶色の混ざったセミロングな黒髪。性格と同じ真っ直ぐで綺麗な瞳。背は平均より少し高いといったところか。
「ねぇ、雫。消しゴム貸して〜」
「ん、いいよ」
授業の最中、後ろの女子生徒が身を乗り出して雫の耳に小さな声でお願いをする。
教室の中では、アイドル的な存在とかそういう目立つ人間ではなく、友達の多さも“普通”だ。
しかし好意を抱く人も少なくなくて、顔だけでなく性格も良い。
「………………」
そんな彼女に惹かれてしまった勇希は、授業中でも時々雫の方へ視線を向ける。ずっと見ていたりすると怪しまれたりするため、教室全体を見渡す振りをしながら、一秒ほどの短い時間だけ彼女を見る。
彼にとっては、長い長い一秒なのだけれど……。
「昼休みまでは、どれくらいか」
ふと、彼は時計を見る。
時計の針が12時を示すには、少し早い。
『退屈だなぁ〜』
ため息をつく彼の視界に入るのは、窓の外に広がった世界。でも、朝とは少しずつ様子が変化していた。
“本日は降水確率20%の快晴で、明日はお昼過ぎから夜にかけて、大雨となるでしょう。”
天気予報では今日一日快晴。にも関わらず、主役のはずだった太陽の居場所は、少しずつ雲に奪われていく。
“明日は急な天候の変化にご注意ください!!”
これぞ天気予報だ。
いざというときには、高確率で的中させてしまうがそうでない時もある。あくまで予報。
「雨、降らないよな?」
最初に言ったように、勇希は天気予報なんて見ない。見るとすれば雨が降りそうになるか、降った後にいつ止むのか確認する程度だ。
「帰り、やばそうだなぁ」
天気の悪戯には、対応ができないのだ。
だが、今日に限っては天気予報にない雨模様のため、予備の傘がなければ対応に困るだろう。
「雨降りそうじゃない!?」
「うそっ!?今日降水確率20%だったけど……折り畳み傘持っていて正解だったわぁ」
「ほんとだっ!これ降るんじゃない?傘なぁい〜。雫は?傘持ってきた?」
「私も持ってないよぉ。帰りまで降らないように祈るしか………」
休み時間に、勇希は女子生徒達のそんな会話を耳にするのだった。
雫と勇希の仲は悪くはない。『会話をしたことがなかったり』と思う人もいるだろう。けれど、今まで何度か同じ教室で、近くの席になったりしたことがあるため、会話は何度も経験済みなのだ。
それがあってか、彼は少しずつ彼女に惹かれてしまった。
『傘かぁ、俺も…………。――――いや、待てよ?この前、朝雨降ってた時に傘置きっぱなしにしたような』
朝に雨が降っていたとすれば、多くの人は傘を持つだろう。でも、その日の夕方が晴れてしまうと、ついつい傘を忘れて帰ってしまうことも……。
「あるわ」
勇希もまた、その一人で幸運なことに傘があった。
それで、何かがあるのかって?それは彼の考え方の問題だ。言い換えれば想像力。
『雨、降ってくれ!!!』
唐突に彼はあることを考えてしまった。
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