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「家まで、送るよ」
「――――嬉しい」
パシャパシャという音ともに、地面で水が踊る。
靴に水が侵入してきても、泥が足に跳ねたとしても、気にしなかった。
「話すのは久々だね。黒岩君」
「そう……だっけ?」
「席離れてからは、話してないと思う」
気にすることができなかったというのが正しいかもしれない。お互いに会話を途切れさせないように、話題を考えているから。
「じ……実はね」
「どうした?」
雫が突然立ち止まる。それに合わせて勇希の足も止まり、恥ずかしさのあまり見ることのできなかった彼女の方に視線を向ける。
実は彼女には、秘密がある――――。
「その……、友達に「傘貸してあげる」って言われたんだけど、断っちゃった」
「なんで?」
「なんで……だろうね。私にもわからない」
「おーい、なんだそれー」
二人の間に、いつの間にか笑顔が咲いていた。
再び歩き始めると、会話に溢れて何だか楽しい雰囲気に包まれていた。
それから、あっという間に楽しい時間は終わりを告げ、雫の家まで行くと勇希は自分の家へと歩き始める。
“私の馬鹿―――”
雫は寂しさを感じながらも、玄関の鍵を開ける。
「でも、言える訳ないよ。「友達に貸してあげるって言われた」という話が嘘で」
“「勇希君が教室にいたの知っていたんだ」なんて――”
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