第二章:ダイヤモンドの軛《くびき》

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***** 「優衣さんには俺が今、電話で知らせたから」  トイレに行くフリをして電話して戻ってきたところで事後報告すると、 「余計なことを」 と怒ることが予想されたお母さんは意外にも安堵した表情で答えた。 「ありがとう」  コートの胸に俺を強く抱き締めた。まるでそうしないともう一人の息子まで自分の前から消滅してしまうかのように。  優衣さんはすぐに現れた(白河病院が優衣さんの家から近いのは後日知った)。 「瞬さんから来るって電話があってからずっと来ないのでどうしたのかと思っていました」 「そうですか」  それから俺たち四人は消毒液臭い病院の廊下で寄り添って次の知らせを待った。  優衣さんは両手を組んで祈る姿勢を取っていた。  組み合わせた左手の薬指にはダイヤモンドの指環が光っていた。  この人はあのメールを見て浮気したと分かっても兄ちゃんに死んで欲しくないのだ。  もし、兄ちゃんが一命を取り留めて 「一緒にいたい」 と言ったら、きっと優しいから許してしまうんだろう。  でも、俺はもう目を覚ました兄ちゃんとまともに話せる気がしない。  俺は兄ちゃんに裏切られた。兄ちゃんも俺に背かれた。  自分たちはもう二度と元の仲の良い兄弟には戻れないだろう。
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