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14 チームワーク
「やっぱりベルはすごいね」
シャンタルがそう言ってクスクスと笑っている。
「そりゃまあ、童子様だからな、すごいことの一つや二つできねえとな」
「違うよ」
シャンタルが隣で得意そうなベルをじっと見て言う。
「そのままのベルだからいいんだよ。何があってもそのままだから。今だってあれだけ不機嫌だったトーヤが笑ってる」
言われてトーヤがなんとなく顔をしかめた。さっきまでの自分を思い出してバツが悪いのだろう。
「ベルがすごいのは元々の魂じゃなく、生まれて、そしてこれまで過ごしてきた時間の結果の今がすごいんだよ」
「けどさあ、それってやっぱり元の種のいい悪いってのあるんじゃねえの? いや、おれがいい種で、そんですごいんだって意味じゃなくさ」
「分かってるよ」
シャンタルがベルの言葉にクスクス笑う。
「でもあんまり関係ないように思うな。ねえ、そうでしょ?」
シャンタルが光にそう聞いた。
シャンタルが直接光に話しかけるのはこれが初めてだ。
『その通りです』
光がやわらかく、そしてうれしそうにそう答えた。
『人は、その生き方己が決まるのです。今のベルは元々の生命の種ではなく、その生き方が作ったものなのです』
「だってさ、よかったな兄貴! 元の種は関係ねえってさ!」
「な!」
シャンタルと光の言葉を聞いて兄を慰めるつもりのベルの言葉だが、
「おまえな、なんか、余計へこむんだよ……」
繊細な少年はかえって下を向いてしまったようだ。
「って、悪いから笑うなって言ってるのに」
「だって、アランが面白くて」
違う場所からそんな声が聞こえた。言うまでもなくアランにうけているリルとそれを止めるダルだ。リルはなぜだかアランがへこんでいる様子が面白くて仕方ないようだ。
「ツボっちゃって……」
「やっぱリルも大した神経だな」
そのリルに対して今度はトーヤがそう言って笑った。
だが、
「で、だな、ちょいずれたんで話を戻すぞ。その生命の種だ、それの話を始めたってことは、それがこいつ」
と、トーヤがまたシャンタルをくいっと指差す。
「黒のシャンタル」
トーヤがそこで言葉を一度止めた。
「その出来事にその生命の種が関係ある、そうなんだな?」
トーヤの言葉に光が不思議な瞬き方をした。
困っているような、そうだというような、この先のことを話すのをためらうような。そんな風にトーヤには見えた。
「おいおい、今更この先はまた今度~、今はお話しできません~、ってのはなしだぜ?」
トーヤが皮肉っぽくそう言って笑う。
『そうではありません。ただ、わたくしにも少しだけ覚悟が必要なのです』
「なんだあ、そんなすげえ秘密なのかよ! そりゃもう一刻も早く聞かせてもらわねえとな、なあ!」
トーヤがこの場に集められた皆に大きな声でそう言った。
「なんか、ベルのことだけでもうお腹いっぱいな感じもするけどな……」
珍しくアランが弱気でそう言った言葉が空間に響く。
「ほんとにそうだな」
トーヤがアランの言葉に笑うが、その視線はアランではなく光に向けられている。
「けどな、このお方はそれよりもっとでっかい秘密ってのを抱えてらっしゃるようだぜ。おまえももうちょい気をしっかり持っていつもの隊長に戻ってくれ。頼りにしてる」
「……分かった」
アランはそう言うと、背中をしっかり伸ばして、バシン! と両手で自分の両頬を叩いた。
「さ、もういいぜ。仕事の話となりゃ自分のことはまた別だ」
「さすがアラン」
トーヤがいつもの言葉を口にする。
「そんでおまえもな。元神様って言われてふわふわしてんじゃねえ。ここはいつもの戦場だと思え、真剣勝負、一瞬の隙でこっちが負ける」
「わかってる!」
ベルも兄の後に続いて同じように自分の頬をバシン! と叩こうとして、
「ベルのかわいいほっぺが赤くなるでしょ」
と、横からシャンタルに止められた。
「おまえはほんとにいつもと変わんねえな、能天気が心強い」
トーヤの言葉にシャンタルがふわっと笑う。
ミーヤはそんな4人を見て、こうやってこの三年をこの人たちは生き延びてきたのだと思った。
戦場で暮らす。それは言葉で言うほど簡単なことではない。頭では分かっていても、長きに渡って戦というものが存在しなかったシャンタリオでは、それは遠い地、または物語の中だけのお話だ。分かっているようで本当には分かりはしないが、その空気だけは感じられた気がミーヤはした。
「そうやって、暮らしてきたんですね」
心の中の思いが流れるように言葉になった。
「そうだな」
トーヤがそう答えた。
「うん、おれたちはいっつも最強のチームだった。なあ」
「そうだね」
ベルもそう言い、それにシャンタルも答える。
「まあ、時々うまくいかない時もあったけどな」
「そんな時はアラン隊長に怒られるけどね」
アランがそう言い、それにまたシャンタルが答えた。
「そういうこった」
トーヤが満足そうににっかりと笑った。
「だからまあ、俺たちには怖いもんなんかない。どんなきつい場面もこうやって全部乗り切ってきた。そうして力をつけてこっちへ戻ってきたんだ。だから、あんたがどんなこと言ったとしても平気だ。さあ、やってくれ」
トーヤが握った左拳を右の手のひらにバシン! とぶつけ、鋭い瞳を光に向けた。
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