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16 集める声
『では話を続けましょう』
ミーヤの思考は光の声によって突然遮られた。
「ミーヤ様?」
「え?」
アーダが心配そうにミーヤの顔を覗き込んでいる。一体自分はどんな顔をしていたというのだろう。
「あの、なんだかご様子が」
「あ、いえ、大丈夫です、ご心配をおかけしました」
ミーヤは無理をして顔に笑いを貼り付けた。
アーダは心配そうにミーヤの様子を伺いながらも、光の方向に顔を向けた。ミーヤも続いて同じ方向に視線を向ける。今はそんなことを考えている場合ではない。本当に大切な話がこれから始まろうとしているのだから。
『もう少しだけ生命の種の話をしなくてはいけません』
光が続ける。ミーヤは懸命にそちらに意識を向けようとした。
『場が、落ち着いたようですね』
光の声にミーヤはハッとした。おそらく、自分の気持ちが乱れていたせいだろう。直感的にそう思った。
『初めてこの場にあなたたちを集めた時、やはり動揺が大きく、場を収めるのに多くの力を使い、そのためにあまり長く話をすることはできませんでした。回数を重ね、今は皆の心が一つになり、この場は大変落ち着いています。やっと大切な話をできる状態になりました』
ミーヤも光の声に集中する。光がそれに答えるように柔らかく光の波を送ってくれた。ミーヤは静かに感謝をした。
『もう少しだけ生命の種の話を。さきほども申した通り、神となる生命の種は人として生まれることをやはりうれしく思うものではありません。それは、人とはあまりに儚い存在だからです』
光が続ける。ミーヤも静かにその言葉に耳を傾ける。
『この世に生まれし全てのものは、神であれ人であれ、みな、いつかはその生を終えます。この世にある山も、海も、空の星すらも、この世界が終わる時にはすべてのものがその生を終えるのです』
静かな動揺が流れる。
「えっと、それは神様もいつかは死ぬってこと?」
『その通りです』
ベルの質問に光が静かに答えた。
「神様も病気になったり死んだりするってトーヤから聞いた時はびっくりしたけど、世界も死ぬんだな」
ベルが心底驚いたという風にそう言った。
『その通りです。ですが、それは長い長い年月の後の話、人から見ればそれこそ永遠のように先の出来事です』
「永遠のように先のこと……」
ベルがうーむと腕を組んで考える。
『ですから、そうですね、今はベルが思っているように、神は死なぬもの、世界は滅びぬもの、そう思っていてもらっていいと思います』
「よくわかんないけど、とにかく神様や世界ってのはめちゃくちゃ長生きだって思ってればいいってこと?」
『その通りです』
光が笑いながらそう言ったようだった。
『その長い生を捨て、あっという間に通り過ぎていく人として生まれることを選ぶ、それがどれほど重大な決心であるかを分かりますか?』
「そりゃきついな」
トーヤが答える。
「一体そんなことして何の得があるってんだ。俺ならごめんだな」
「そうかなあ」
「何がだよ」
「トーヤって案外そういう損なこと自分からやってるとこあるからな」
「は?」
「例えばおれらと会った時も、文句言いながら兄貴担いでさ、おれのことも引っ張って歩いてくれた」
「そりゃおまえ、それはシャンタルが――」
「はい、そこまで!」
アランがパン! と手を叩いて2人を止めた。
「脱線終わり! 続きどうぞ」
アランが光に話の続きを促す。
光がキラキラと笑うように揺れた。
場にいるみんなも笑ったように思えた。
そんな中、ミーヤ一人だけが胸に痛みを抱えていた。
今まではそんな場面を見ても微笑ましく笑えていたのに、どうして……
いや、今はそんな場合ではない、ミーヤは心を押さえて光の話に集中しようとした。そして光がそんなミーヤの心を知るように、やわらかく、やわらかく、癒やすように光を送ってくれたのを感じた。ミーヤは心の奥から光に感謝をした。
『トーヤも申した通り、ほとんどのものは嫌だと思うのです。ですが、その道を選んでくれた二名がいる、それがベルとフェイでした』
「うん、それはさっき聞いた。で?」
トーヤが照れくさそうに頭をかくベルを無視して話の先を促す。
『なにゆえこの二名が人の身に降りる必要があったのか、それは人の身では力足りぬことをやるためでした』
「フェイは色々なことをやってくれた。今にして思えばだが、そのために生まれてきたって言われたら納得できる」
トーヤが感情を交えぬようにそう言った。フェイの人生については心を寄せると感情の爆発を抑えられない。そのためだ。
「けど、この馬鹿は今までに何やってくれたかさっぱり分からん」
「なんだと!」
「おまえは黙っとけ!」
「はい……」
ベルの言葉をアランが止めて何もなかったように話が進む。
『まずは召喚』
「え?」
『あなたたちはどうやってこの場に集まりましたか?』
「俺のとこはあれだな、あんたにもらった」
『その通りです。ではミーヤとリルは?』
「あ、はい、私はフェイの青い小鳥を」
ミーヤが急いで隠しからフェイの入った小袋を取り出した。
「私はこの子です」
リルは「アベル」が作ったあの木彫りの青い小鳥を取り出した。
『その小鳥がみなをここに呼んだのです』
光の声に皆が2羽の小鳥に視線を向けた。
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