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7 決める者は
そんな会話を思い出していたらダルの子たちが来たのだろう、みるみるにぎやかな声で部屋の外がいっぱいになった。
「来たみたいだな」
ベルが小さな声でこっそりそう言う。
「そうみたいだね」
「なるほど、こりゃにぎやかだ」
トーヤとシャンタルも小さな声でこっそりとそう答えた。
「そういや、おまえはダルの子どもたち見たんだよな」
「うん、検問のところで遠くからだけどね」
ベルがアベルとしてダルと一緒にリルが注文したお守りを届けに行った時のことだ。
ダルの子は5人、一番上が女の子で下4人は男の子だ。アミが全員連れてカース側の検問へ来て、ダルからの手紙とお守りを受け取り、子どもたちがダルに手を振って村へ帰っていく姿を見た。一瞬だけの家族の再会だった。
「おまえの喪中で結婚を一年延期したって言ってたから、結婚したのが七年前だろ、そんで一番上が6歳で、それからずっと年子だって言ってたな」
「おいおい、毎年1人ずつ増えてるのかよ」
「へえ、それはすごいね」
なんともとんでもない説明をするベルだが、まあ事実なので誰も訂正はしない。
「一番下がまだアミさんに抱っこされてた」
「他の子の顔とか見られたか? ダルに似てたか?」
「うーんと、一番上の女の子はもうかなりしっかりしてて、ちょっとだけゆっくり見られたけど、そうだな、どっちかってとダル似に見えたな。後のちっこい男の子たちは動き回ってたし、アミさんにまとわりついてたからあんまりよく見えなかった」
「ダル似の女の子か」
言われてトーヤは想像するが、あまりよく分からない。
「細長くてのんびりした感じだったな」
「ああ、なるほど」
なんとなくイメージできた気がした。
こそこそとそんな話をしながら隠れていると、やがて部屋の外が静かになり、
「帰ったからもういいよ、出ておいで」
と、ナスタが3人を迎えにきた。
「にぎやかだったなあ」
家の中央の広い居間に出て、ベルが手足を伸ばしながらそう言う。
「そりゃちびが7人だからね、一度に押し寄せたらあんなもんさ」
「ダナン兄貴のところは2人なのか」
「男と女1人ずつね」
「おふくろさん、7人の孫持ちになってんだなあ」
「そうだよ、もういいばあさんさ」
ナスタが幸せそうに笑ってそう言い、
「こいつにもうちょっと甲斐性がありゃ、10人超えてたかも知れないんだけどねえ」
と、ダリオをじろりと睨んだ。ダリオがトーヤに向かって肩をすくめて見せる。
「まあまあ、そのうちにな」
たじたじとなるダリオをナスタがさらにムカッとしたように睨み直す。
そんな親子の様子を見てトーヤたちが笑っていると、
「あんたもだよ! 聞いた話じゃ、本当はこっちに生まれるはずだったってことだっただろうが。ことが落ち着いたらとっととこっちに腰据えて、とっとと世帯持って、そんであたしにもっと孫を見せておくれな。そのために戻ってきたんだろうが」
「おいおい、そのためってなんだよ」
とんだ流れ矢が飛んできたもんだとトーヤが驚く。
「あそこでそう聞いて、ああ、やっぱりなと思ったよ。トーヤ、あんたはね、やっぱりここが故郷なんだよ、この村が。あんただって分かってんだろ? ずっとここが恋しかっただろうが、この八年」
「おふくろさん……」
ナスタの思わぬ言葉にトーヤが返す言葉をなくす。
あの不思議な空間、あの不思議な光の言った言葉を、この人はそんな風に受け止めてくれていたのか。そう思うと不思議な感慨が湧いてきた。
「あんたのこと、じっと待ってた人もいるだろう? だから、約束しておくれ、あたしにもっと孫をくれるってさ」
誰のことを言っているかが分かった。
だが、分かったからこそ簡単に返事はできない。
してはいけない。
トーヤはじっと黙ったまま動かない。
動けなかった。
そんなトーヤの様子にベルは息が詰まる。
いつもなら、トーヤはどんなことにでもすぐに反応する。それが都合がよかろうが悪かろうが、本気であろうが冗談であろうが、どんなことにでもすぐに反応しなければ命を失い兼ねない、そんな環境にずっと身を置いて生きてきたからだ。
そのトーヤが動けなくなっている。
それは、相手を限定された話だからだ。
もしも、ダリオのように漠然と説教されただけならば、いつものようになんとか返事を返していただろう。
現に最初は「まいったな、こっちにまで話が飛んできた」という顔をしながら、ナスタの言葉に反応を見せていた。それが「待ってた人がいるだろう」の一言で何も言えなくなってしまったのだ。
『ミーヤは宮の侍女だから、なかなか難しいかも知れないよ』
ふと、シャンタルの言葉を思い出す。
そもそもベルがこちらに来ることを決めた理由の半分は、トーヤを大事な人に会わせてやりたい、そして自分もその人に会ってみたい、それであった。
思えばすごく軽い理由であったと思う。もっと簡単な話だと思っていた。会わせればなんとかなると思っていた。
だが、いざこちらに来てみると、宮だの侍女だの神様だの、自分が思っていた以上に面倒な、そして深刻な問題だと理解するしかなかった。
『なんにしても、それを決めるのは私たちじゃないよ』
シャンタルはそう言っていたが、では、決めるのは一体誰だと言うのだろう。
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