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『それは凪島くんは悪くないでしょ……』
「だよねぇ……」
飾り気の無い自室のベッドの上──呆れたような声がスマートフォンのスピーカーから聞こえて、八宵は肩を落とした。それはそうだ、勉強を教わる身にも関わらず歓談に興じていたこちらに問題が有る。
悩みとして聞いて貰うにしてもあまりに野暮な内容だった。生徒たちの間でときおり噂になる祠の神様に悩みを相談しても、姿は見えずとも困り顔で話に耳を傾けてくれそうなことが容易に想像がつく。八宵は電話の相手と自らの想像の内に留めている祠の神様の姿に静かに詫びた。
「勉強も半分くらいはちゃんと聞いてたつもりだったんだよ、手が動いてなかっただけでさ」
『ハイハイ、それはちゃんと聞いてなかったってことになるよ──で、どうすんの。凪島くんに謝るなら私も付き合おうか?』
電話の相手の言葉は呆れながらも柔らかい姿勢を崩さない。 本心から怒りや嫌悪を抱いていないことがよく分かる、とても優しい声だ。穏やかさに関しては本人の気質も多分に含んでいるだろう。だからこそ八宵も彼女相手には打ち解けるのが早かった。今では互いに悩みも愚痴もなんでも話せる良き親友となっている。
「んや、いい」
──スマホ越しなので動作が見えるはずは無いと分かっていながらも、八宵は鷹揚に片手を振った。電話の相手は八宵を軽くからかう調子で被せるように声を掛ける、側に彼女本人が居たならば脇腹のひとつもつつかれていたことだろう。
『アンタも素直じゃないからね。意地になってる?』
「いやそういうことでもなくてさ」
『じゃあ何か他に理由が有るの?』
「それは──」
──そうして少女たちの夜は更けていく。外ではいつの間にか、しとしとと雨が降り始めていた。
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