白蛇様の花嫁は強気な黒髪少女

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 白威に会った日の帰り道、村人があまり通らない道を歩いて家へ帰った。  毎日会っているというのに、白威の美しさに慣れることはない。使者より天使が似合う。  あんなに神々しい使者を寄こした白蛇は、一体どういう気持ちでいるのか。  優子は自分が白蛇になった気持ちになって考えてみる。  もしも自分の顔が醜かったら。嫁に来る女が可哀想だな、そうだ、美しい白威を使者にして短い間でも美を堪能してほしい。醜い自分ができるせめてもの償いだ。と、なる。  もしも自分の顔が白威の上をいく顔だったなら。それだったら使者の容姿など最初から考えない。白威を行かせたことに深い理由なんてない。  どちらだろうか。  醜い容姿をしているから白威を行かせたのか。  それとも白威の上を行く容姿であるのか。  後者なら要注意だ。  何故なら、優子は白威の美に未だ慣れていないからだ。白威に触れられると思わず振り払ってしまう。嫌だからではない。恥ずかしいのだ。  朱の瞳は優子だけを映し、壊れ物を扱うかのような手つきで優子に触れる。  それはまるで、大切にされているような、白威の中で優子が特別になったかのような、そんな気分になる。  口数は少なく、言いたいことが分からない時は多々ある。しかし、偶に見せる分かりやすい表情や仕草を見ると、可愛いと思う。  普段笑うことはないのだが、時折柔らかく微笑む。それは本当に微々たる変化で、笑顔と言えるようなものではないかもしれない。しかし、優子には分かる。微笑んでいると分かる。それを見ると、きゅうっと胸が鷲摑みされているような錯覚に陥る。  優子はそれが悔しかった。  何故か自分だけこんな変な気分になっている。白威も同じ思いをすればいいのに。  なんだか負けた気がする。同時に、心地よさを感じている自分もいる。  本当に変だ。  家に着くと「ただいまー」と声を出す。  いつもであればこの時間は母が夕飯の準備をしているはず。しかし、家の前に立った時も、扉を開けて入った時も、料理の匂いがしなかった。  父は夕方頃に畑へ行くと言っていたので家には母しかいないはずだ。  何の匂いも漂って来ないので、妙だと思いながら台所に踏み入れる。母はいない。  どこへ行ったのだろう。  ふと、テーブルの横に何かが見えた。  足を進めて、いつも家族三人で囲んでいるテーブルまで行くと、床に髪の束がある。  すべてを目にすると、力が抜けた。 「お母さん!」  母がぐったりと倒れていた。  膝を折り、必死になって母に声をかける。  母の目は閉ざされたまま。  胸に耳をつけると、心臓は動いていた。  生きていることに安堵し、急いで父を呼びに畑まで走った。  呑気に畑の中を歩いている父に声を荒げ、事態を伝えると血相を変えて優子より先に家に戻った。 「しっかりしろ!」  父は一目散に母の元へ駆け寄り、声をかけるが母は起きない。  何度か声をかけると母は苦しそうに身動きし、薄っすらと目を開けた。 「あ…」  大丈夫、と言いたかったが言葉にならず、再び母は目を閉じた。  優子が発見した時よりも人間味のある表情で、命に別状はなさそうだ。  父は家の中にある薬を持って母に飲ませようとする。  母は口元だけ動かし、薬を飲み込むとそのまま眠ってしまった。  父は母を抱えて布団に寝かせ、優子と二人でテーブルを囲んだ。 「さっき何の薬を飲ませたの?」 「体調が悪くなるときに飲む薬だ。何にでも効くから、効き目が大きいわけじゃない。それにしても、どうして急に倒れたんだ」 「これが何か関係あるんじゃない?」  これ、と指したのはテーブルの上にある三つの湯飲み。  まだ三つとも中身が入っている。 「お茶か?」 「うん。でも、湯飲みが三つってことは、お母さんは誰かと飲んでいたのよ」 「そうだな。でも、誰が?」 「それはお母さんに聞かないと分からないけど、でも一緒に飲んだ人間がお母さんに何かしたのよ」  意地の悪い村人によって、母が殺されかけた。  絶対に見つけ出してやる。 「でも、その人たちが何かをしたっていう証拠はないだろう。とにかく目が覚めるのを待つしかない」 「証拠はないけど、分かるよ。だって、これいつもお母さんが使う湯飲みだからこれはお母さんが飲んだのよ。お母さんの湯飲みだけお茶が減って、他の湯飲みは減っていない。ということは、お母さんは二人の前で飲んだ後に倒れた」  その時、二人は母の傍にいたはずだ。  母が倒れたのを確認し、お茶を飲まずに帰って行った。  もし、二人が訪問した後、用がないからとすぐに立ち去ったのなら母は二つの湯飲みを片付けてから自分のお茶を飲んだはずだ。  テーブルの上に使わない湯飲みを放置したままお茶を飲む母ではない。
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