白蛇様の花嫁は強気な黒髪少女

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 気づけば書庫で寝ていたようで、起き上がると腹の上に白蛇が乗っていた。  いつの間に乗っていたのだと首を掴む。  起きた優子を確認するように見上げると、火でも噴きそうな赤い色を帯びた顔で瞳を潤ませていた。  ぎょっとし、慌てて優子の目元を舌でちろちろ舐める。  優子は白蛇の尾を掴み「うわあああああ」と叫びながら壁に叩きつけた。  我に返った優子は白蛇を離し、膝を抱えて顔を埋める。 「な、な、何よさっきのー!」  キャー、と足を小さくぱたぱた動かす優子を白蛇はぽかんと眺める。 「ちゅ、チューした!絶対、おでこにチューした!」  両手で額を押さえ、またもや足を小さく動かす。  心臓が激しく音を立て、優子の体温を上げていく。  目を開けていなかったけど、あの感触は絶対にそうだ。  あの時、白威はどんな顔をしていただろう。何を思ってあんなことをしたのだろう。  そして自分はどんな顔をしていただろう。変な顔をしていなかったか。いや絶対に不細工だったはずだ。涙を流して、胸のときめきやら緊張やらで顔が歪んでいたはずだ。  もっと良い表情をしているときにしてほしかった。 「ああああ、もう、もう!」  何も、あのタイミングでなくてもよかったのに。  次に会ったらどんな顔をすればいいのだ。  普通に接することができるだろうか。  というか、主人の嫁になる女に対してそんな行為をしていいのか。不敬ではないか。まさか主人の怒りを買って殺される、なんてことにならないか。 「ね、ねえ、白威が殺されるなんてことないわよね?あんたの主人の怒りを買って殺されるなんてことない?」  心配になり、白蛇を両手で掴んで必死に尋ねる。  白蛇は首を振り、そんなことはないとアピールをする。 「そ、そう。ならいいわ」  心配の種が消えた。  しかし、あれは、好きということなのか。  好きと言われたわけではないが、告白と受け取ってよいものか。  白蛇の世界であれはどういう意味なのか。  友情の証。永遠の絆。妹への愛。  そういう意味になるのなら、今こうして舞い上がっている自分が馬鹿だ。 「ねえ、おでこに唇を当てる行為ってあんたの世界じゃどういう意味なの?」  両手から白蛇を離すことなく問う。  真剣な表情をする優子に、白蛇はどう表現しようか迷う素振りを見せる。 「友情?」  白蛇は、ふりふりと首を左右に振る。 「絆?」  ふりふり。 「妹とか、姉への愛?」  ふりふり。 「…恋?」  こくこく。 「恋!?本当に!?本当にそうなの!?違ったらあんた絶対に許さないわよ!」  白蛇を振り回し、真っ赤な顔で大声を出す。  恋、恋、恋。 「つ、つまり白威は、私のことが好きってこと?私に恋してるってこと?そういうこと?」  白蛇に同意を求めるが、ふいっと顔を背けられてしまう。 「ちょっと、最後まで教えなさいよ!そういうことよね!?つまり私に惚れてるってことよね!?」  あの白威が自分に惚れている。  そんな事実を受け止めきれない。  必死になって白蛇を問い詰めるが、目を瞑って優子から逃げるので片手で白蛇を握り、上下に振る。 「教えなさいよ!!ほら、早く!」  力いっぱい上下に振る。  優子が疲れて腕を止めるも、白蛇はどこ吹く風だ。  そんな様子に腹が立ち、また上下に振り回す。  白蛇はダメージを負うことなく、疲れ切った優子だけが出来上がった。 「はぁ、はぁ、本当にあんたしぶといわね」  睨みつけた後、疲れて動きたくない身体を床に倒した。  惚れた。白威が、自分に惚れた。  あの白威が。  確かに自分は可愛く成長した。綺麗だな、可愛いな、と自分でも思う。  しかし、白威の輝きには勝てない。  白威より劣る自分を、白威が選んだ。  今までの自分を思い返すが、好かれるようなことをした覚えはない。意地悪をした覚えならたくさんある。  一体どこに惚れたというのだ。  逆に、自分は白威のどこに惹かれたのだろう。  考えてみるが、これといって特別なものはない。もちろん容姿は好きだ。あの美しさに勝るものはない。表情が変わりにくいけれど、分かりやすい時もある。無口だけど、素直だ。  あの朱い瞳に見つめられると、平静ではいられない。  どこが好きか。  そんなもの、一概に言えるものではない。  もしかしたら、白威もそうなのかも。  どこが好きかと優子が聞いても、優子と同じような回答になるのではないか。 「はぁ、次はどんな顔して会えばいいの」  きっと慌てふためいて、いつもより変な態度をとってしまうかも。  そんな自分が想像できる。  次会うまでに、心はいつも穏やかにしておこう。
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