初めてのカレシ

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初めてのカレシ

 休み明けの朝は小雨が降っていた。紅葉も色づいてきて肌寒くなってきて、高校の制服は冬服に衣替えした。  秋が深まっていく。  私には大好きな人ができた。  新聞部の先輩と春に付き合い始めて、半年が経っていた。  告白されたのが、今でも信じられない。  些細な出来ごとも先輩となら楽しくて。  先輩が笑うと私も嬉しい。  私は部活帰りに先輩に誘われて、先輩の家にそのまま遊びに行くことにした。  ご両親は仕事で出張に出掛けて今夜は帰って来ないんだって。 「ゆっくり出来るよ」って言われた。  なんとな〜く、先輩から下心的なものも感じてる。  もう私はお年頃。  男の子と付き合うと初めてがたくさん溢れていた。  色んな経験をするんだなあって、新鮮でひとつひとつが驚きで満ちている。  先輩とだとひとりより何倍も楽しい。  男女が付き合うと、いずれはあんなことやこんなことをすることは知っていた。  友達との会話、雑誌の情報、少女漫画とかで……。  詳しいやり方? は分からないけど、好き同士が付き合ったら、いずれは通る道……キスの先。  キスしたらの、次。  どうやら恋人同士のイチャイチャには段階があるらしい。  高校一年生では早いかな。遅いってことはないだろうけど、クラスには中学三年生で経験済みな子がいてびっくりした。  中学校卒業記念に彼氏にせがまれたんだって言っていた。  いつがいいのかだなんて、私の友達は誰もはっきりは分からない。  どれが正解かも分かんない。  親には相談しづらくてお姉ちゃんにこっそり相談したら、大学生のお姉ちゃんはまだ未体験だった。  社会人の彼氏には迫られたけど、心の準備が出来るまで待ってって言ったんだって。 「真菜(まな)、あなたも自分を大事にしなくちゃ。流されたまま初体験なんて良くないよ」 「うん、わかった」  ごめん、お姉ちゃん、私経験してみたいんだ。  先輩の部屋。何度も来てるのに、今日はやけに片付いている。 「真菜が来てくれるかな〜って、昨日一日かけて部屋を片付けたんだ」 「綺麗になってるね」 「……」  空気が変わって、沈黙のなか二人の周りにあいだに甘い風が吹く。  先輩が私にキスをしてきて。  いつもよりやけに長くて。  体が時折り、ピリッて痺れた。  これは、なに? なぜ?  静電気が走るみたいな感覚がするの?  何度も口づけられて、息継ぎ? 出来ない。 「……っ、苦しい」 「ごめん、ごめん」  私は恥ずかしいけど聞いてみた。 「息継ぎ、どこでするの?」 「プッ――。いつも息止めてんの?」 「だって、よく分かんないよ」 「自然に、呼吸してなよ」  先輩は笑ってた。  外から、さっきまで止んでいた雨が急に激しく降ってきた音がする。  大粒だろう雨粒がパラッパラッと窓に当たってから、ザーザーと音がした。 「俺のこと、好き?」 「うん、好き」 「俺も真菜が好き。真菜のことが好き」  私は先輩に抱きしめられてそのままベッドに二人で転がった。何度もキスをされた。  私は息苦しかった。  分かんないんだもん。呼吸のタイミングが。  制服のブレザーを脱がされて、ネクタイをシュルシュルと外された。  先輩の少しひやっとした冷たい手が、スカートをまくし上げながら侵入してくる。  くすぐったいけど、なんか怖い。  侵入者だ。  そんなトコ、触られたことない。 「先輩、やだ」 「えっ……」 「まだ、やだ。出来ない」  怖い。  先輩が違う人に見えた。 「キライになった?」 「ううん、好き。ごめんなさい」  違う。  先輩のこと、キライになったかもしれない。  ドクンドクンドクン……。  私の心臓が早く打ってる。  私、緊張しているんだ……。  学校で、教室の前に出てクラスみんなの視線を感じながら発表する時みたいに、イヤな感じの緊張の仕方だった。  早く終わって欲しい。 「先輩、もう一度してみて」  このままだと、先輩のことキライになってしまうかもと怖くなっていた。 「……しないよ。無理矢理なんて、イヤだ。俺、待つから」 「うん……。先輩、今日はなんかごめんなさい」 「謝るようなことじゃないよ。大事なのは真菜の気持ちだから」 「うん」 「ごめん。俺もさ、なんか焦ってたのかも」 「焦ってた? 先輩が?」 「そうだよ。それって真菜がすっげえ可愛いから」 「えっ?」 「誰にも渡したくない……。俺、真菜のことを好きだって言う奴がいるの聞いたんだ」  先輩は私をぎゅっと抱きしめた。  そのまま。  じっと動かず。  そのまま。  しばらく二人でベッドの上で。二人ともただじっとして、しっかりぎゅむって抱き合ってる――  あったかい。  先輩の腕に包まれた私、先輩の胸に抱かれてる私。  あったかい。  耳のそばで。  すぐ近く――、彼の心臓のドキンドキンと早い鼓動がしてる。  先輩って、包み込まれるみたいに優しい。  抱き合ってる。  それだけで――、先輩の気持ちが流れ込んでくる。  言葉はないのに、好きだ好きだってたくさん言われてるみたいだ。   「……先輩、もっと自信持って良いのに」 「自信なんて持てないよ。真菜のこと好きすぎて余裕なんかなくなる」 「先輩、ほんと?」 「ほんと」  先輩のため息混じりの吐息が耳にかかって、胸がきゅうっとなった。くすぐったい。 「好きだ」 「私も。こんなに好きなんだもん。先輩……私ね、他の人になびいたりしないから大丈夫だよ」 「……真菜っ」  先輩にしがみつくようにぎゅうって強く抱きしめられて、ちょっと苦しい。けど、嬉しい。  胸元が奥もきゅうぅんっと切なく痛む。  私も……腕を精一杯伸ばして、先輩の背に回して抱きしめ返す。  胸にあたたかいものが湧き上がる。  これってなんなんだろう。  熱い、もの。  心のなかに満たされていくみたいな。 「あのね、先輩。……私、先輩に抱きしめられると気持ちいい」 「んーっ。俺はちょっと色々我慢してんですけどね。まぁ、良いや」  何を我慢してるのかは私にはイマイチ分かんないんだけど、先輩が焦る必要ないんだよな〜とか、キスだけでやっぱ今は良いとか言うのを聞きながら、私は少し眠たくなっていた。  早く経験してみたい気持ちと、やっぱり怖い気持ち。  いつかはそんなもの失くなって、先輩と初体験するんだろうか。  あと少し、あともうちょっと。  ……先輩の胸の中で、(あたた)まったら。  お(うち)に帰らなくっちゃ。        おしまい
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