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「絶対にわたしを追ってこないでね」
あなたはいつもそう言っていた。
太陽の光の溢れる病室で。
白いレースのカーテンが波のように揺れる。
冷房が苦手なあなたは、窓を開けて外の空気を吸うのが好きだった。
それを咎める人はない。
そこは個室で、病室という名称でありながらも病気を治療するための施設ではなく、緩やかに死を迎えるためのゆりかごだったから。
あなたの意思は最大限に尊重され、寄り添う私に対しても人々はやさしく、哀れみの情を持って接してくれた。
若くして癌に冒されてしまったあなた。
若さゆえに進行も早く、気付いた時にはもう手の施しようのなかったあなた。
一体、あなたが何をしたと言うのだろう。
清廉で、我慢強く、自分よりも他人を慮ってばかりだったというのに。
その美しい生き方そのものが仇になるなんて。
「わたしの分まで生きてね。
わたしの分まで幸せになってね」
あなたの切実な願いを、叶えるつもりなど端から無かった。
あなたなしには生きられるはずがない。
あなたは私の生きる意味で、
あなたは私の死ぬ意味なのだから。
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