列車

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 車窓にどんなに頭を近づけても暗い緑しか見えない。仕方がないから向き直って、車内を見回す。  誰も居ない。  僕しか居ない。こんなにガランとした電車は初めてだ。ワクワクした。  でも少し怖かった。 『間もなく、冥界、冥界』  また放送が聞こえる。今度ははっきりと意味を理解した。 『お出口は右側です。ドアから手を離してお待ち下さい』  冥界。そうか。冥界か。  車内の明るさがほんの少し変わった。後ろを見る。いつの間にか辺りは開けていて、薄暗い空が顔を覗かせていた。 「ここで降りるのか」  何故か口から滑り出た。何故か立ち上がった。何故か滑らかに歩き出した。  冥界。死後の世界。  ここが僕の行くべき場所。  窓からは無機質な建物が沢山見える。長方形の綺麗なマンション。滑らかな曲線を描くビル。空を突き刺す電波塔。  そのどれもが、僕を迎え入れている様だった。
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