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列車
薔薇園の中、カタカタと音を立てて列車は進む。薄汚れた黄色い列車だ。塗装が剥げ、部品が外れている所もある。
薄暗い空の下、ライトの部品が外れ線路を照らす事無く進む列車は、まるで冥界行きの様。
「コラッ薔薇を荒らさないでよね!」
甲高い声が響く。
そして列車は横からの障害物で横転。カラカラと乾いた音が虚しく地面へ吸い込まれて行く。
「何だよ姉さん!」
「何だよじゃないわよ! 母さんが丁寧に育てた薔薇なの。それをこんな玩具で荒らさないでって言ってるのよ!」
宙に浮いた列車に、横揺れが激しく襲う。
「返せよ!」
「……分かったわよ。もう辞めてよね」
「…………」
「次やったら壊すよ? 分かった?」
「はーい」
鬼じゃねぇか。
ポーンと投げ出された15センチ程の列車を手にして、僕は家へ戻った。
雨が降りそうだったから。
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