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先輩との出会い
4月だけれどまだ朝の空気は冷たい。
ひんやりとした風を全身に浴びながら自転車のペダルを漕ぐ。
ロードバイクが颯爽と僕を追い抜いていく。
かっこいいな。
競技自転車の某漫画に出てくる主人公がここぞというときに口ずさむ歌が頭の中で流れる。
自分も早く走れる気がする。
高校までの平坦な道のりを今日もひたすら漕いでいく。
駐輪場に自転車を停めて、乱れた前髪を整える。
目が隠れる程の長さに切り揃えている前髪。
これは僕にとってなくてはならないものだ。
ずり落ちた眼鏡をクイッと上げて教室へ向かう。
あっ、またゴミが落ちてる。
ゴミ箱が近くにあるのにどうして捨てないかな……。
拾ってゴミ箱へ入れる。
ゴミ箱の向こう側に花壇が見えた。
チューリップだ!
吸い寄せられるように花壇へ近づく。
よく見ると他にも花が植えられているのだが名前が分からない。
「気付かなかったな
きれい」
スマホを取り出してボタンを押す。
何枚か写真を撮っているとふと視線を感じた気がした。
あたりを見回すが誰もいない……。
気のせいか。
気を取り直してもう少し撮る。
なかなかいい感じに撮れた。
満足した僕は今度こそ教室へ向かった。
「拓真、おはよう」
「蒼生、おはよ
いまだにその前髪見慣れないわ」
中学が一緒だった唯一の友達である拓真がそう言って笑う。
「まぁ、これのおかげでいろいろ助かってるから」
僕は自分の顔が嫌いだ。
特にぱっちりとした大きな二重の目……
女子と間違えられるような他人いわくかわいい顔面のおかげで、小さい頃は女みたいだとからかわれた。
中学に入ると伸びない身長と太らない体質のおかげで線が細くか弱く見える僕は、電車に乗った時に痴漢の格好の餌食となった。
満員の車内で、硬くなった男の股間を押しあてられたり、お尻を撫でられたりされた。
怖くて声を出せなくてただひたすら耐えた……。
おかげで電車に乗る事が嫌になり、上を狙えるという先生の意見を無視して、自転車で通えるこの高校を受験した。
変な男にはしつこく声をかけられるし、女の子には勇気を出して告白したのに、隣に並ぶのは無理と言われて振られるという悲しい思いをしたこともある。
もうあんな思いをするのは嫌だと手っ取り早く見た目を変えることにしたのである。
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