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突然先輩との連絡が途絶えた。
あんなに見かけていたのに、全然見ない。
会えないかメッセージを送っても、忙しいから無理だという返事ばかり返ってくる。
声が聞きたくて電話をかけてもコール音が鳴り響くだけ。
受験生だし、仕方ないのかな。
それとももう僕の事飽きちゃったのかな……。
先輩に会いたい。
あんなにセックスをしていた僕だけれど、一人でしたいとは思わない。
先輩限定で性欲が湧くんだと気付く。
「ハァ……」
「またため息ついてる」
拓真が呆れた顔をして言う。
辛気臭いからやめてと言われて、ごめんと謝る。
「夏休みはどうするの?」
「うーん、特に予定ないかな」
「じゃあ、一緒に夏期講習行かない?」
「夏期講習かー
親に話してみる」
「ここなんだけどさ……」
拓真に塾のホームページを見せてもらって、自分のスマホでも検索する。
どうせ暇だし、ちょうどいいかもしれない。
夏休みまで、あと少し。
それまでに会えるといいんだけど。
蝉の音がうるさい。
夏休みに入って、僕は塾に向かうためペダルを漕いでいる。
全然爽やかじゃない暑苦しい風を浴びながら、ノロノロと運転する。
教室に入ってクーラーの有難みを全身で味わう。
「今日も暑いな」
「だね、自転車ヤバイよ」
僕は塾と家を往復する毎日を送っていた。
相変わらず先輩から連絡はない。
先輩と過ごしていたのは夢だったのかなと思うくらい単調な日々。
今日は何もない日で、駅前の本屋にでも出かけようと思い立ち出かけることにした。
暑くて前髪を横に流して、眼鏡も外した。
これが良くなかった。
「あのー、すみません
ここってどうやって行けばいいか分かりますか?」
スーツを着たサラリーマンに声を掛けられた。
「えっと、ここは……
ご一緒しましょうか?」
「いいんですか?
出張でこっちに来たんだけど全然分からなくて
助かるよ」
爽やかな笑顔でお礼を言われた。
ここなら近いし、まぁいいか。
「君は学生?」
「あっ、はい
本屋に行こうと思っていて」
「そうだったんだ
ごめんね、付き合わせてしまって」
「いえ、全然
気にしないでください」
しばらく歩いていると目的の場所に到着した。
「ここですよ
それじゃあ」
頭を下げて帰ろうとしたのだがお礼をさせてほしいと引き止められた。
「よかったらご馳走させてよ
とても助かったんだ」
「そんな大したことしてないですし
時間大丈夫ですか?」
「まだ時間はあるし
この辺だったらどこが美味しいのかな?
駅前ならいろいろお店あるのかな?」
「いえ、そんな気にしないでください」
「いいから、行こう」
「いや、でも……」
「本当に助かったんだ
あのまま彷徨ってたら遅刻していたかもしれないし
ね?」
断りづらくて頷く。
道案内しただけなのに、なんだか申し訳ないな。
「食べたいものある?」
「あっ、いえ
お任せします」
「そう?じゃあここにしようか」
イタリアンのお店で、お客さんがたくさんいて賑わっていそうだった。
店に入り、ソファ席に案内された。
何故か隣に座ってきた。
「あの、ここでいいんですか?」
「変かな?」
「向かい側じゃないのかなって思って」
「隣に人がいると落ち着くんだよね」
そういう人もいるのかな?
僕は落ち着かないんだけど。
彼が僕をにこやかに見つめてくる。
その視線に少し違和感を感じ始める。
気のせいだといいんだけど。
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