不安

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不安

 夏休みが終わり、季節は秋になっていた。 「あお!」  あっくんは僕を見つけると人目を気にせず大声で僕を呼ぶ。 「あっく……、先輩」  小さく手を振って応える。  どんどん近づいてくる。  嫌な予感がする。 「あー、あお会いたかった」  公衆の面前でギューッと抱きしめらる。  あぁ、嫌な予感は当たった。 「ギャーッ」  女性陣の悲鳴が上がる。  視線が痛い。 「ちょっ、やめてって言ったでしょ?」  あっくんを引き剥がして注意する。 「そうだった、ごめん」  シュンとするあっくんに弱いけど、こればかりはやめてもらわないと。 「こういうのは二人きりのときにして、ね?」  小声で話すと、分かったと言って頭を撫でる。  いや、聞いてた!?  この大きすぎる愛情表現のおかげであっくんに近付く女子が減ったからいいんだけど、その分何なんだお前はという女子の視線がとてつもなく痛いからやめてほしい。   なんとか逃れて教室に戻ると白石さんが後ろから入ってきた。 「相変わらずすごいね、あの人」  言葉の棘を隠そうとせず、白石さんが言う。 「見てた……?」 「見たくないのに目立つから目に入る」  何とも言えない。 「まっ、うまくいってるみたいでよかった」 「うん、まぁ……」  言葉を濁すと、白石さんは苦笑した。  白石さんとはもう席が隣ではないけれど、挨拶はするし、一応普通に喋れるようになったと思う。  これで良かったのかどうかは分からないけれど。    金曜日、今日はあっくんの家に泊まりにいく。  受験生のあっくんとは会える時間がなかなか取れなくて、息抜きしたいから来て欲しいと言うあっくんの言葉で、久しぶりにゆっくり会える事になったのだ。  自転車置き場で待ってるとメッセージを送って歩いていると、お友達の二人が見えた。  今日も厳つい……。  あっくんは一緒じゃないのだろうか? 「あの、こんにちは  この前はありがとうございました」 「あっ、あおくんじゃん」 「この前ってあれ?」 「そう、ストーカーのやつ」 「あおくん、よくあいつと付き合おうと思ったね」 「ほんとビックリ」 「あれ?赤くなってる、かわいい」 「あおくんはめちゃくちゃかわいいんだよ」 「いえいえ、そんな事ないです」 「まぁ、あいつの前では言っちゃダメだけど」 「あの、あっくん……」 「「……??」」  しまった、いつもの呼び方で呼んでしまった。 「じゃなくて、陽斗先輩は一緒じゃないんですか?」 「……あっくんは先生のとこ行ってるから  もう少ししたら来るんじゃないかな」 「それにしてもあおくんすごいよねー  こんなに続いてんのあおくんが初めてなんじゃない?」 「確かに、あいつ酷かったもんなー」 「酷かった?」 「まぁ、昔の話なんだけど  あおくんと付き合う前は女の子取っ替え引っ替えしてたからさ」 「……そうなんですか」  あっくんかっこいいもんな。  女の子にモテるの知ってるもん。  分かっていたけど、気持ちが沈んでいく。 「今は違うよ?  あおくん一筋だからな」 「そうそう、めちゃくちゃ変わった  惚気けられて大変なんだから」  二人がフォローしてくれる。  僕の気持ちは沈んだままだ。  あっくんは女の子とセックスをしたことがある。  またしたいって思ったりしないんだろうか……。 「あれ、あお!?」 「あっくん、おそーい」 「あおくんいつまで待たせんだよー」 「おまえらっ……」 「ごめん、ついいつもの癖で呼んじゃって」 「謝ることないって  ごめんな  こんな人相悪い奴らに囲まれて、怖かっただろ?」 「おい、ひでーな」 「ううん、ふたりとも優しいよ」 「早く行こう」 「あおくんまたねー!」 「あおに喋りかけんな」  僕はお礼を言ってその場を後にした。  二人で歩いているときも考えてしまう。  顔が引き攣ってあっくんにうまく笑えているか分からない。
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