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先輩に初めてを奪われる
僕はしばし思考が停止していた。
先輩は手を握りしめたままうっとりとした表情で僕を見つめている。
ブワッと全身に鳥肌が立つ。
今までに声をかけてきた男達と同じ香りがする。
いや、それ以上に危険な気がする。
「自己紹介がまだだった
俺は久保田陽斗、3年
あきとって呼んでくれればいい
お前は一年生だよな?」
知りたくない情報を聞かされる。
手はガッチリとホールドされたままだ。
「教えたくありません
手を離して下さい!!」
「ダーメ、逃げるだろ」
そうだ、逃げたい。
このクレイジーな男から一刻も早く逃げ出したい。
「なぁ、もう1回顔見せてくんない?
そうしたら離してあげてもいいよ?」
絶対に嫌だ。
冷や汗がダラダラと流れる。
手を離してもらおうと必死にもがくが、さらに力を込められて呻いてしまう。
「なっ?」
「ごめんなさい
それは無理です
許してください」
僕は泣きそうになりながら必死に謝罪した。
この人に顔を見せるのは絶対に嫌だ。
でもどうすればいいんだ……。
見せろと無理ですの押し問答が続く。
「強情なやつだな」
そんなやり取りが永遠に続くかと思われたその時神が舞い降りた。
「あれ、あっきー?
後輩いじめんなよー
大丈夫ー?」
そう言って助けてくれたのはいつも一緒にいる先輩二人だ。
なんて、いい人達なんだ……。
「おい、邪魔すんなよ
いいとこなのに」
いいとこって何ですか!?
何もよくないんですけど??
「めちゃくちゃ困ってるじゃん
可哀想に
ほら、もう行きな」
手を離してくれて、ようやく開放された。
助けてくれた神にお礼も言わず、一目散にその場を立ち去る。
「また明日なー!」
恐怖の言葉を背に受けながら僕は全力で走った。
転びそうになりながらも必死に駐輪場まで行き、全速力でペダルを漕いだ。
追いかけてこられでもしたら困る。
翌日、重い足取りで学校へ向かう。
こんなにも行きたくないと思うのは初めてだ。
昼休み
見つからないように教室を出ようとした矢先、金髪先輩が教室の前で待ち構えていた。
遅かった……。
見た目はイケメンなのに言動が残念な男が笑いながら手を振っている。
その光景に女子が色めきだっている。
みんな騙されてる。
あれはサイコパス野郎だ。
見えてないふりをして早足で逃げる。
そんな僕を追いかけてくる足音が聞こえる。
足音がどんどん近づいてくる。
来るな、来るな、来るなー!!
ボクの思いとは裏腹についに追いつかれて、彼が僕の前に立ちはだかる。
「こーら、逃げても無駄だって
山下蒼生くん」
ニヤリと笑いながらジリジリと距離を詰めて壁越しに追いやられた。
壁ドンをされる日が来るとは思わなかった。
「なぁ、あおー
ちょっとだけ二人で話せない?」
「あの勝手に呼ばないでください
話すことなんてありませんので退けてもらえませんか?」
言ってやった。
はっきり言わないとつけ込まれるんだ。
「話すことあるんだわ
な?」
低い声で凄まれて竦み上がる
人格変わり過ぎて怖い……。
「はい……」
抵抗なんてできるわけないじゃないか。
「はい、決まり♪」
無理やり引きづられて、屋上に連れ込まれる。
ヤンキーの定番スポットだ。
何をされるんだろう。
怖すぎる……。
地獄へ足を踏み入れた気分だ。
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